先週末、こちらのエントリー に書いた第7回「経営のプロ」へのキャリアセミナーを、楽天、取締役常務執行役員の吉田敬氏をお招きし、実施しました。

昨秋のNILSで吉田さんとともにパネルディスカッションをさせていただきましたが、その人間力にあふれるリーダーシップスタイルを拝見し、「ぜひ、弊社セミナーでも経営のプロのロールモデルとしてお話いただけませんかー」と強くお願いし、実現した次第。

出張直後でお忙しい中、

「過去のイベントや活字で答えたことがある質疑応答は、聞いたことがある人には時間の無駄だし、僕も回答するのが恥ずかしいですー」

と、すばらしいFAQを自ら作ってきてくださいました(感動ものです。本当にスバラシク面白い内容)。

従って、当日のディスカッションでは、極めて本音ベースでお話いただきました。また、多くの質問に対して、非常に具体的に真摯にお答えいただき、参加者の方々も皆、吉田さんに魅了されていました!多くの参加者の方から

「ああいう 人を活かす上司と働きたい」と思った
「ああいう経営者になりたい」という目指したい姿のイメージが持てた

等のコメントをアンケートでいただいております。吉田さん、本当にありがとうございました!

↓写真は、セミナーの様子の一部です。

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セミナーの内容については、後ほど弊社HPにセミナーレポートをあげさせていただく予定です。ということで、ここでは、私自身にとっても気づきのあったポイントを、2点だけ簡単にご紹介させていただきます。

1. ベンチャー企業を選ぶ際のチェックポイント+経営者との関係構築

32歳で、楽天に中途入社された吉田さん。現在はメガベンチャーであり日本を代表する企業のひとつとも言える楽天ですが、吉田さんが入社された当時は売上数億円、従業員数約30人のベンチャー企業だったとのこと。

ディスカッションの中では、吉田さんが楽天を選ばれた理由を伺ったわけですが、ベンチャー企業を選ぶ際のチェックポイントのひとつとして、「社長と常にコミュニケーションをとってスピーディーに経営判断できそうか」をあげておられました。

特に、オーナー企業の場合には、社長との相性が極めて重要であることに言及した上で、それに加えて、

「社長に心地よく信頼されつつ、部下といえども言うべきことを言えるような間柄をいかに作り保つかが重要」

と言われていたのが、非常に印象的でした。

ベンチャー企業の場合には、環境によって戦略やビジネスモデルの変更はありえるもの。一方、経営者の性格、志向、価値観は、変わりにくい。社長を人間的にも信頼できるのか、価値観やビジョンを共有できるか、が重要ということについては、私もこのブログでよく記載させていただいています。

が、それに加えて、オーナー経営者の場合には、理論的に企業と社長はアンバンドルできない。そのような環境の中では、

  • オーナー社長からの信頼を勝ち取り、
  • 社長と健全な議論をできるパートナーとしての位置づけを確立し
  • 社長の「思考のくせ」にも思いを馳せながら(思いを馳せる感度をもっているかが重要)、企業の意思決定が(プロセスはどうあれ)「結果として」最適な状況になるよう、尽力ができるか

がポイントとのお話に、私もいろいろな事例を反芻しながら、心から賛同した次第です。「経営のプロ」を目指しベンチャー企業に入社する人にとっても、そこで個人と企業を急成長させようとしている人にとっても、重要な示唆となる点だと思っております。

 

2. 経営者目線を持って、できることを考え行動する

弊社は、「”経営のプロ”を目指す人に、成長のきっかけ・機会をご提供したい」との想いから、日々の活動をしておりますが、そこで常に課題となるのが、「きっかけのつかみ方」議論。すなわち

実績のある人にしか活躍の場が与えられず、実績をつくるための「きっかけ」がいつまでたってもつかめない

というもの。今回の吉田さんのお話の中には、これに対する一つの回答が示されていたように思います。

吉田さんは創業3年目の楽天に、開発部のプログラマーとして入社。すなわち、メンバーとして入社したわけです。そこで効いてきたのはリクルートで培った「社員皆経営者主義」という目線。

入社後の比較的早い段階から「経営者目線」で楽天という企業を見ることができたことから、この企業のおかれている状況の中で、自分が何に貢献すべきか判断でき、行動でき、その実績が周囲からも認められることになり、その後の業務範囲や権限の拡大につながっていった、とのこと。

具体的には、当時の楽天の企業ステージにおいては、売上を作ることの重要さを感じ、しくみとして売上をあげる方法を考えぬき、広告事業、携帯事業、の立ち上げを推進し、実績をつくった、という経緯。

もちろん、きっかけをつくるためには、未経験者にも成長のきっかけや機会を付与してくれる経営者がいる企業を選ぶ、という方法もあるとは思われます。ただ、多くのベンチャー企業の場合、そのようなお膳立てをするための経営資源がなかったり(特にメンバーやミドルマネジメントレベルで入社の場合)するケースも多いと思われます。

そんな中、多くのベンチャー企業、特に企業ステージが若ければ若いほど、意外にも「ここを伸ばせば・・・」と思われることが、急成長に人材供給が追いついていなかったり、組織能力がそこに足りていなかったりで、「未着手の白地=チャンス=穴」が外から来た人には見えやすかったり、誰も手をつけていないので意外に取り組みやすかったりするチャンスになりやすいと思われます。

まさにリクルート式の「自ら機会を創り出し・・・」という精神だったりするのだと思うのですが、とにかく小さな成功でもやれることからやって、徹底的にやり抜いて実績をつくる、というのが、例え権限を与えられていなかったとしても「成長のきっかけ」となる鍵なのではないでしょうか。

この時に重要なのは、吉田さんのおっしゃる「経営者目線」。少し鳥瞰したところから企業全体を見回しながら、穴を見つけ、現場ではディテールの積み上げをきっちりやりぬく、という姿勢を持っているか、がきっかけをつかめるかどうかの鍵だなぁと、痛感した次第です。

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キャリアの作り方、経営手法、といったものは、往々にして文字にして書き表すと、結構「あたりまえ」的なものが多いもの。しかしながら、「神は細部に宿る」ではないけれど、実は具体的に実行することや、実行し続けることは本当に難しいもの。

今回の吉田さんのお話では、修羅場でどんな経験をされ、どのように考え、そして結果として企業も個人もどう成長されたのか、といった点について、非常に具体的にお話していただけ、多くの示唆を与えていただけたと思っています。

やっぱり、具体的な事例を通じて学ばせていただくことは、本当に貴重であるし、また参加者の皆様にもイメージしやすく伝わりやすいなぁ、とあらためて痛感した次第です。

吉田さん、本当にありがとうございました!

グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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