「経営のプロ」市場動向予測の全体傾向 の続編エントリー。今回は「業界編」をお送りする。

「もっと人がいたら、もっと業績が伸ばせるのに・・・」という「人材獲得が成長のボトルネック」という企業は、業界を問わず多いが、その中でも特に「経営のプロ人材需要」に動きがありそうな業界について、予測してみたい。

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1. 「職人の世界に経営を入れる」が、キーワード

「職人の世界に経営を入れる」は弊社の造語。「アーティスト」や「職人」といった方々、即ち「経営のプロ」以外の「他の領域でのプロフェッショナル」の方々が「ビジネス」「経営」をやっておられた業界に、「経営手法」を持ち込む、ということを意味している。

例えば、医療業界。医師はもちろん医療のプロフェッショナルではあるが、経営を体系的に学んだことや経験したことはない方が多い。そのため、「医師としての優秀さ病院経営のうまさ」となっているケースが多い。

少子高齢化、医療提供者不足、規制緩和・変更等の環境変化の中で、経営効率が著しく悪い、患者指向のサービス提供ができていない、プロジェクトファイナンスなどができない、等のケースで、コンサルティング提供者も増加しているが現場側での「経営のプロ」を求める事例も増加している。合従連衡などの業界再編においても「経営のプロ」のニーズが今後も高いと思われる。

大学経営など教育業界にも同様のロジックで「経営のプロ」が求められている。規制緩和あるところには、「経営のプロ」のニーズあり、というところだろうか。環境業界などもこの一例。

また、この傾向が特に著しいのが、エンターテインメント業界。音楽、映画、アニメ、ゲーム、などのエンタメ業界は、2〜3年前から「経営のプロ」人材が流入しているが、今後この傾向は益々強まると思われる。

CGM(Consumer Generated Media)の台頭で、無料のコンテンツは溢れている。商業ベースのエンタメについては、洗練された経営手法が求められつつあり、「経営のプロ」人材の流入が著しい。より売れるものを考え、巨額のお金を様々な手法でファイナンスし、製作効率を高め、版権等権利関係の契約を最適な形に整え、流通チャネルを多様化、派生商品構築など、一作品からの多様な収益モデルを構築、市場(海外)を開拓する等々、「経営のプロ」活躍の場が広がっている。

ここ2〜3年の動きに加え、今年以降ますます需要増加が加速すると思われるのが「海外からオカネを調達し、海外市場開拓ができる人」。日本の市場はある意味飽和しつつある。海外でも著名なコンテンツクリエーターと「経営のプロ」が組み、作品を大規模化させる動きが加速している。投資銀行出身者がグローバル市場での調達を考え、商社出身者が海外市場開拓を行う、といったパターンも増加している。

「世界でお金を集めて、日本のコンテンツを世界に輸出する」という「日本発」というキーワードも、「経営のプロ」人材が魅力を感じる理由かもしれない。

その他、スポーツマーケティングの世界、美容・理容、(ハイエンド)外食・小売などのライフスタイル関連業界などにも、「職人の世界に経営を入れる」現象は拡大しているようである。

2. モバイル関連

「いまさら」感もありますが・・・。

モバイルコンテンツ・広告・コマース・ソリューション・メディア開発といったモバイル関連企業での需要は勿論。加えて「モバイル×●●●」系の需要は、今年もまだまだ好調の様子。従来PCでやっていたことのモバイルでの横展開的事業推進や、モバイルならではの新規事業開発、モバイル上のメディア開発(コミュニティー、ユーザー囲い込み)など、モバイルの特性を生かした「広義のモバイル関連」の人材需要は驚異的。

エンジニア出身でモバイル関連の事業開発ができる、といった「経営のプロ」の争奪戦は、はっきりいって凄い状況となっており、今後も続くと予測される。

3. カテゴリーキラー関連

業界という切り口?といわれると疑わしい感じではあるが、新規事業開発などで「経営のプロ」人材需要が多くなっている傾向があるのが、セグメント特化型で事業展開をするという業態。

2007年問題を逆手にとり「団塊の世代(のオカネと時間)」を狙ったアクティブシニア向けの金融事業、旅行業、小売業、サービス業などがこの例。

「30代働く女性」など、性別、年齢、趣味・嗜好、年収、ライフスタイル、家族構成等、様々な軸の掛け算によって生まれる小セグメントに対して、「しかけ」をしていく「経営のプロ」を求める声は多い。

CRMの精度のあがった昨今、マーケティング上意味合いのあるデータだけを取得し、解析し、事業開発に生かしていくというPDCAサイクルをまわせるような「経営のプロ」を求めている企業は多い。狭く深く、というコンセプトは今後も続くと思われ、人材需要もこの傾向は続くのではないかと思う。

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以上、「経営のプロ」の需要が顕著な事例で、この1年もこの傾向が続きそう、というものについて記載してみた。次回は、企業の成長ステージ別に、「どのような機能・役割の経営のプロが求められているのか」、という切り口で需要予測をしてみたい。

グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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