11月に第二回目のSILC(Service Industry Leaders Conference)が開催されるが、そこで「国境を越えるサービス」というテーマでのパネルディスカッションのモデレーターを担当する。(昨年開催の第一回の模様はこちら)
 
このパネリストとして、公文教育研究会 取締役社長室長 石川 博史氏にご登壇いただくので、事前取材ということでお話を伺いに行った。私が関心を持っている、グローバリゼーション×リーダーシップという観点からも、非常に示唆に富んだお話を伺うことができたので、エントリーしておきたいと思う。
 
***
 
グローバル展開する公文式
 
良い商品が世界で受け入れられる(国境を越える)のは難しいと思うのだが、人の生活習慣や嗜好に深くかかわる「サービス」が国境を越えるのは、より難しいといわれている。
 
ましてや、文化や人の価値観というものに非常に密接に係わる「教育」の分野であれば、なおさらであろう。
 
このような領域にあって、公文式は、まさに「国境を越えるサービス」を提供し、日本を含む世界45の国と地域で400万人超に教育サービスを提供しているという。

<国内>
教室数:1万7,600教室
指導者数:1万5,200人
学習者数:148万人

<海外>
教室数:7,800教室
学習者数:264万人

<普及地域>
世界45の国と地域(日本含む)
(2007年3月末現在)

(出典:公文教育研究会HPより)

教育に対する社会・親の考え方の違い
 
いきなり自分の話で恐縮だが、実はHBS時代、「公文式の米国進出の難しさ」というケースが、Service Managementのクラスの試験の課題だったことがある。5年以上前の話なのでうろ覚えではあるが、その中にこんな話があった。
 
「アメリカ人は、学校が休みのシーズンでなくても、親の休暇にあわせて長期間、子供に学校を休ませてしまうことがままある。こうすると必然的に公文式の教室も長期に休ませてしまうこととなる。この結果として、子供が教室に習慣的にやってくるモメンタムを失ってしまい、日本の公文式に比べ、途中解約の件数が格段に多い」
 
取材で伺った際にも、このような「各国における親の教育観の違い」によるご苦労の事例も数々伺った。夏休みには長い休暇をとり、その間は勉強なんて「もってのほか」、という国もあれば、長い休みの時にのみ集中して勉強させたい、という国もあるとのこと。このような各国でのチャレンジについては、木下玲子氏著の「寺子屋グローバリゼーション」に詳しく記載されているとのこと。
 
公文式国際化の成功要因
 
パネルディスカッションの前に、あまりここでネタバレさせてしまってはいけないとは思うのだが・・・。お話を伺って、成功要因の肝と思われることが2つほど心に残ったので、記しておきたい。
 
1)「目の前の子どものために、自分は何をすべきか」という価値観の共有・浸透
 
ご存知の通り、公文式は公文式の創業者である公文公(くもんとおる)氏がその長男のために考案した算数の自習教材が原点。長男の毅氏は、小学校6年生の時には高校2年生レベルの微分・積分を修了するまでにいたったとのこと(私なんて、いまだに微分・積分がどんなものかもあまりピンと来ていなくって、さっきこっそり夫に教えてもらいました・・・)
 
50年以上たった今でも、すべてがこの方式。すなわち、どのレベルでもどの国でも、指導者と学習者は、あたかも親子のような関係。すべての指導者は何か壁にぶつかったら「目の前の子供のためにはどうしたらいいのか」を考える、というのが基本行動として徹底されている。
 
サービスマネジメントの基本は、企業のビジョン・ミッションが明確で、現場で働く従業員にそれが浸透しており、従業員満足度が高くなり、顧客満足度が高くなる、という所謂サービスプロフィット・チェーンといわれる一連の流れが一貫していることである。公文式の場合には、「目の前の子供のため」と思える指導者たちが寺子屋方式で子供達に対面している。そもそも「目の前の子供の成長のために寄与したい」という人々が(どちらかというと自ら志願してきて)指導者をやっている、という所が、強い共通の価値観の源となっている。サービス・プロフィットチェーンが成功している典型的な事例と言えるだろう。
 
これは、受験に勝てる子供をつくる、というのではなく、「”読み書き計算(そろばん)”的な子供の基礎能力を強くすることに寄与したい」という人間の根源的なモチベーションに働きかけるような価値観を「よりどころ」としているからこそ、公文式は国境を越えることができた、というのが一番の肝なのだと、お話を伺って思った次第である。
 
もちろん、「公文式学習法」 の普遍的な競争力、先にのべたような「教育に対する価値観問題」を解決するための手段や、指導者の方々を集めた世界的な勉強会などの「コミュニティー」をつくっていく取り組みなど、いろいろな創意工夫ののしくみにも、グローバルでサービスを展開する企業に参考になることは沢山あるのだと思うが、言うのは簡単だが実行するのは大変難しいと思われる「サービス提供者が、心からビジョン・ミッションを体現している」という所が、公文式グローバライゼーションのKSFだと思う次第である。
 
2)カリスマ経営者からの継承
 
グローバリゼーション、というお題とは、少し違うイシューではあるのだが、もうひとつ興味深い、と思った点は、カリスマ経営者からの脱却、ピンチをチャンスに変えて来られた企業、という点である。
 
同社は、95年に創業者である公文公氏、97年にご長男の公文毅氏がご逝去される、という局面を経ておられる。強い創業者が、歩くDNAとして価値観の象徴となっている企業では、創業者が経営者でなくなった途端、求心力が失われる、というケースは非常に多い。
 
もちろん、公文の場合にも、事業継承の危機はあったのかもしれないが、その後、価値観の共有、言語化、浸透、に着手され、従来以上にグローバリゼーションも含め成長を加速化されている。
 
上記1)のポイントが、創業者が経営者でなくなった後も、強く継承されているわけであり、これがまた、グローバリゼーションを牽引する礎ともなっていると思われる。グローバリゼーションも進む中、経営者継承をどのように行いつつ、価値観の求心力を担保するのか、という点も非常に興味深い点であり、ぜひパネルディスカッションの中で深堀させていただきたいと思っている。
 
***
 
数学先進国として名高い、計算の本家本元の「インド」にすら受け入れられる公文式。パネルディスカッションでは、具体的な事例などについて、大いに伺ってみたいと思って、大変楽しみにしている次第である。
 
プロノバ 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

2005011ProNova岡島悦子ver2.jpg

岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

最新トラックバック一覧