おなじみNILS(IT関連ベンチャー企業経営者会議)のサービス産業版をつくろう!ということで、SILC(Service Industry Leaders Conference)の第1回が開催されました。


私も「Growing Pains(成長の痛み)を乗り越えろ〜事業拡大に伴う組織の痛みとその処方箋〜」のモデレーターとして出席してきました。


テイクアンドギヴ・ニーズ取締役人事部長の桐山さんと英会話のGABA COOの須原さんにパネラーとしてご登場いただけたので、非常に内容の濃いパネルとすることができました。(お二人、本当にありがとうございました!)


今回は、ウェディング、葬儀、保育、教育、外食、小売、観光、運輸交通、人材派遣、など多様なサービス産業のベンチャー企業の経営者が200人くらい集まるイベント。


星野リゾートの星野さん、グッドウィル・グループの折口さんの2人のキーノートスピーチに加え、産業再生機構の冨山さんを初めとする様々なパネリストにご登場いただくパネルディスカッションがあり、私自身にも気づきや学びの非常に多いカンファレンスでした。


 サービス産業は「人が財産」。店舗や拠点の現場に多くのスタッフが働いているのが、サービス産業の特徴。顧客フロントにたつこの現場レベルのスタッフの質と量をどう担保するか、が急成長と成功の鍵。


ということで、以下のような様々なトレードオフをどのように考えて執行していくのか、といった話が、多くのセッションの中で共通のテーマとして浮かびあがっていたような気がします。

  • 顧客満足度向上 vs 売上急成長・利益重視
  • 現場のスタッフの「感じる能力」向上 vs マニュアル化・サービス均質化
  • 現場主義 vs 経営インフラ整備
  • 情理 vs 合理
  • 価値観・理念共鳴型社員採用 vs 即戦力社員採用
もちろん、上記の各項目は両立できる場合もあるわけですが、経営資源が有限の場合、経営戦略とは捨てるものを決めること。したがって、どちらかに比重をかけたり、どちらかをあきらめたりしなければならない場合もあるわけです。

数多くのセッションで、急成長を志向する企業だからこそ、このような戦略、哲学でどのようにバランスさせてきたか、というような事例ベースの具体的なお話も伺え、非常に参考になりました。


中でも、グッドウィル折口さんの「70%の精度論」は、現実感のある非常に含蓄のあるお話でした。
サービス業の場合には、規制が緩和されて市場が急成長していたり、顧客の嗜好も変化し続けており、「日々是決戦」。精緻な事業開発や組織開発よりも、いかにスピード早くPDCAサイクルを早くまわすことができるか。


70%の精度のサービスを市場に出して、どんどん試していっていみる。これが急成長の成功の秘訣。これより精度をあげたものを作っている間にどんどんスピードが遅くなり良いサービスだとしても陳腐化する。
ブランディングを考えると「失敗はできない」と思いがちで、ついつい精度の高いものを時間をかけてつくりがちであるが、失敗したときの対応策さえ用意されていれば、スピードを落とした時の機会損失のほうが恐ろしい」というもの。


これはサービス業の場合には、事業開発のみならず、組織開発においても同様かもしれない、と思った次第です。


「成長の痛みを超える組織開発をどのように設計・推進していくべきか」という私たちのセッションでも、この部分についても、議論をさせていただきました。


経営管理体制・人事組織・人事制度も、理念・経営戦略・採用・育成と一貫性のあるものを構築すべきであることは譲ってはいけないのですが、店舗数・現場のスタッフ数の多いサービス業の場合には特に、「70%の精度の制度」といったものを導入し、現場に浸透させながら、改善していく。ある意味「永遠のベータ版」であるべき。


人事制度は、従業員のモチベーションをコントロールする「非常に有効な経営の武器」。顧客と向き合う現場にいる従業員の多いサービス業の場合には、ことさら強力な武器と言えるかもしれません。
だからこそ、企業ステージにあわせて「適切なタイミングで適切な要素の制度」を導入しなければならない。あまりアーリーステージの企業であれば導入する必要はないかもしれないし、遅すぎればモチベーションを正しくコントロールできず、退職者が続出するかもしれない。


適切な要素を正しい配分で導入しなければ、例えば、従業員が顧客満足度向上に非常に振れてしまって、利益がおざなりなってしまう、などという急ぶれの原因にもなってしまう。


ガチガチの制度にしてしまわず、こういった急ぶれを微調整しながら、70%の精度のものを現場と試してみて、徐々に調整しながら制度の精度をあげていくべき、という議論です。そして制度を導入・変える時には、ソフトランディング的な導入の仕方にしていく。


これらの鉄則を、GABAの須原さんは「単純、あいまい、ゆっくり」の原則と述べていましたが、納得感のあるキーワードだと思いました。


ベンチャー企業の人事のプロ中のプロであるテイクアンドギヴ・ニーズの桐山さんが、1000人の会社である同社で「人事制度らしい制度(コンピテンシーモデルのようなもの)は、敢えて作っていない」と言い切り、「機が熟すまで待っている」と言っておられたのも非常に印象的でした。まさに、業種の特性と、適切なタイミングを熟慮して、という背景とのことです。


もちろん、同社の場合には、制度がなくても経営陣の大いなるコミットで「従業員の評価やモチベーションを担保するしくみ」、をきちっと持っておられ、実行されているからこそ、成功しておられる訳ですが・・・。


・・・という訳で、感じたこと、考えたこと、などまだまだいろいろあるのですが、またまた長くなってきてしまいましたので、またのエントリーの機会に譲ることにしたいと思います。


学びも楽しさもネットワーキングも満載な、右脳も左脳も刺激される1泊2日のカンファレンスとなりました。ここで学ばせていただいた数々の示唆や洞察を、日々の仕事に生かしていければ・・・と思う次第です。


グロービス・マネジメント・バンク 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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