水平型リーダーシップ
特に議論の中で興味深かったのは、「なぜ今、ソフトなリーダーシップが必要とされてきているのか」という部分。国際疾病センター長のJulie曰く、SARSなどの新種のウィルス感染病や化学兵器によるテロなどの対応におけるリーダーシップの場面では、政府関係者、軍、医療専門家等、多様な機関に属する各種専門家が急遽集められる。各々違う組織から派遣されてきており、緊急時組織のため、指揮命令系統は決まっていない。このような状況の中で、早急に情報を収集し、意思決定し、対応していくことを迫られる。一国の中で解決できない問題も発生する。
意思決定権限を持った管理者からの指揮命令系統に従うといった、旧来型の垂直型リーダーシップ(Vertical Leadership)は、多様な組織が協調して、早急に結果を出さなければならないような状況においては、機能しない。ここで必要なのは水平型リーダーシップ(Horizontal Leadership)というものである。
Horizontal Leadershipにおいては、協調とコミュニケーション(Collaboration & Communication)が鍵である。早急に妥協点を探っていくプロセスが必要になり、そのためには自己の主張をすることのみならず、「傾聴」して情報をいかに相互に吸収していく(not only articulating but also listening)ということができるかが必要、というもの。
こうした局面では、権威・権限に依拠するハードなリーダーシップと、人間力によるソフトなリーダーシップとを、文脈に合わせ使い分けていく、メタ的リーダーシップスタイルが必要になるというもの。この文脈を正しく見極め、リーダーシップスタイルを使い分けていく能力こそが、今後リーダーに求められる資質ではないか、との議論である。
この話、私にとっても、非常に腹落ちの良い議論であった。以前から旧ブログでも書いているように、私は企業という組織の壁が薄くなり、企業の壁を超えた「プロジェクト型組織」が増加する傾向にあると思っている。ハリウッドはこの典型事例ではあるが、日本でも、LLPなど目的にあわせて組織を組成し、目的達成後には解散するというプロジェクト型組織が増えている。
この肝は、違う専門性とバックグラウンドを持った人材が、一時的に集積するというところである。こういった組織の場合には「権威」とか「あ・うんの呼吸」といったものは通用しない。言葉にすると陳腐に聞こえるが「コミュニケーションの重要性」がまさに問われる。短期間に凝縮されたコミュニケーションを尽くし、共通の利益と目的に向かって結果を出すことが求められる。
興味深いのは、「強い(ハードな)リーダーシップ」が求められがちな、アメリカ人の政府機関においても、「水平型の組織では、場面によってソフトなリーダーシップが求められる」という論点であろう。ハードなネゴシエーションによって自己の利益を勝ち取るといったタイプのリーダーシップだけでなく、ソフトなコミュニケーションによって妥協点を見出していくというタイプのリーダーシップのことである。ハードなリーダーシップとソフトなリーダーシップのどちらかが良いとか、どちらが自分のスタイルである、といった二元論ではなく、両方を使いわける必要性をアメリカ人が現実感を持って語っている部分である。
日本でも、水平型リーダーシップの必要性は、今後、増加するのではないかと思われる。例えば、私は、現在、PEファンド経由や、経営共創基盤など、再生の局面に経営チームで入っていく方々の採用や育成のお手伝いなどをさせていただいている。経営チームが、資本の過半数を握らずに経営の現場に入っていく場合には特に、ここで言う「水平型リーダーシップ」的なアプローチが必要になってきていることを痛感する。
会社更生法に追い込まれている企業のように、危機感の真っ只中にいる企業でない限りは、日本の伝統的な企業には、資本の理論を前面に出したハードなリーダーシップだけでは、なかなか変革は進まないように見受けられる。企業の合従連衡が進んだり、プロジェクト型組織化が進んだり、と水平型リーダーシップが求められる局面は、今後益々増加する予感がしている。
水平型リーダーシップ、という概念について、今回は考えるきっかけを与えてもらったと思っている。権威によらないリーダーシップにおいて、成功の要件は何なのか、リーダーに求められる資質は何なのか等、今回の議論では結論までは導き出せていない。ただ、今後いろいろと考えるための大きなきっかけとなるセッションに出席できたという意味で非常にinspiringであった。本ブログでも、この水平型リーダーシップについては、今後もホット・テーマとして追いかけてみたいと思う。
・・・と、あいかわらずの長文になってきてしまったので、global×leadership×innovationについては、次号に譲りたいと思う。
(株)プロノバ 代表取締役 岡島悦子