9月6日から8日まで、ダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)*のInaugural Annual Meeting of the New Champions 2007(通称、サマーダボス)に出席した。
 
様々なジャンルで世界を牽引するリーダー1700人が中国の大連に集結。非常にinspireされ
global×leadership×innovationということについて、あらためて深く考えさせられたので、ここにアップしておきたいと思う。
 
サマーダボスとは
 
いわゆるダボス会議は、毎年1月にスイスのダボスで開催されているが、グローバルに成長すると期待される企業などを集めたNew Champions(日本語で言うと「新興」っていうイメージだろうか・・・)会議を、今年から新たな試みとして始めてみたというもの。BRICsなどの成長は著しく、グローバルにおけるインパクトが今後益々大きくなると想定されることから、WEFが開催に踏み切ったもの。
 
そういった文脈から、今回の会議は成長の象徴とも言える中国で開催されたというものである。温家宝首相は、夏ダボスは毎年中国で開催される予定、とスピーチで述べておられたが、年1回の開催は予定されているものの、ずっと中国であるかは未定らしい。(来年は天津とのこと)。
 
世界90カ国から1700人ものリーダーが集まるという盛況な会議である。日本からは、川口順子氏、竹中平蔵氏、黒川清氏、石倉洋子氏などの政界・アカデミアの方々、大企業の経営者に加え、マネックスの松本大氏、ザインエレクトロニクスの飯塚哲哉氏、グロービスの堀義人氏などベンチャー企業の経営者、投資家などが参加した。
 
私自身は、今年WEFからYoung Global Leadersに選出していただいた為、その一貫として参加させていただいたというもの。
(会議場の前。とにかくとてつもなく広い会議場。セキュリティーが異常に厳しく、首からかけているIDタグを各会場入場時に専用機にかざし、写真照合で入場が許可される。)
 
リーダーシップ2.0
 
今回いくつもの有意義なセッションに参加することができた。すべてのセッションは、メディアでもカバーされ、また、ウェブキャストでも閲覧可能となっているので、ご興味のある方はぜひご覧いただきたい。
 
著名なリーダーが出るセッションは沢山あったのだが、実は今回、最もinspireされたセッションは、
"Leadership 2.0"というセッション。急遽増設となったセッションである。

Leadership 2.0

Friday 7 September 11.30-12.30, World Expo Center, Davos Room

Panelists:

Julie Louise Gerberding, Director, Centers for Disease Control and Prevention, USA

Paola Aotonelli, Curator, Department of Architecture and Design, Museum of Modern Art

Annie Young Scrivner, CEO, Pepsi Foods, China

Zanab Salbi, President and Chief Executive Officer, Women for Women International, USA

Moderator:

Christine Ockrent, Editor-in-Chief and Author, France 3, France

パネリストのバックグラウンドが、医者、MOMAの美術館員、米国企業の中国トップ、NPO代表と多岐にわたり、多様な領域におけるリーダーシップのパラダイム変化について討議する、ということなので、参加してみた。会場に入って驚いた。パネリストは、モデレーターも含め、5人とも女性。「女性のリーダーシップのセッションでしたっけ?」ともう一度アジェンダを見てみるが、そうではない。実は、名前を見ずに、パネル趣旨とパネリストの役職だけを見て参加してみたら、全員女性だったということである。
 
日本では女性フォーラムといった趣旨の会議でない限り、パネリストが全員女性などということは、ありえなさそうだが、WEFのような国際会議でも非常に珍しいケースだと思われる。アジェンダは以下の通り。

1) What new skills are needed to master leadership - How does good become the best?

 

2) How do today's leaders strike the right balance between soft and hard power?

 

3) What lessons are learned from the new generation of leaders? What were the mistakes of the preceding generation?

水平型リーダーシップ

 

特に議論の中で興味深かったのは、「なぜ今、ソフトなリーダーシップが必要とされてきているのか」という部分。国際疾病センター長のJulie曰く、SARSなどの新種のウィルス感染病や化学兵器によるテロなどの対応におけるリーダーシップの場面では、政府関係者、軍、医療専門家等、多様な機関に属する各種専門家が急遽集められる。各々違う組織から派遣されてきており、緊急時組織のため、指揮命令系統は決まっていない。このような状況の中で、早急に情報を収集し、意思決定し、対応していくことを迫られる。一国の中で解決できない問題も発生する。
 
意思決定権限を持った管理者からの指揮命令系統に従うといった、旧来型の垂直型リーダーシップ(Vertical Leadership)は、多様な組織が協調して、早急に結果を出さなければならないような状況においては、機能しない。ここで必要なのは水平型リーダーシップ(Horizontal Leadership)というものである。
 
Horizontal Leadershipにおいては、協調とコミュニケーション(Collaboration & Communication)が鍵である。早急に妥協点を探っていくプロセスが必要になり、そのためには自己の主張をすることのみならず、「傾聴」して情報をいかに相互に吸収していく(not only articulating but also listening)ということができるかが必要、というもの。
 
こうした局面では、権威・権限に依拠するハードなリーダーシップと、人間力によるソフトなリーダーシップとを、文脈に合わせ使い分けていく、メタ的リーダーシップスタイルが必要になるというもの。この文脈を正しく見極め、リーダーシップスタイルを使い分けていく能力こそが、今後リーダーに求められる資質ではないか、との議論である。
 
この話、私にとっても、非常に腹落ちの良い議論であった。以前から旧ブログでも書いているように、私は企業という組織の壁が薄くなり、企業の壁を超えた「プロジェクト型組織」が増加する傾向にあると思っている。ハリウッドはこの典型事例ではあるが、日本でも、LLPなど目的にあわせて組織を組成し、目的達成後には解散するというプロジェクト型組織が増えている。
 
この肝は、違う専門性とバックグラウンドを持った人材が、一時的に集積するというところである。こういった組織の場合には「権威」とか「あ・うんの呼吸」といったものは通用しない。言葉にすると陳腐に聞こえるが「コミュニケーションの重要性」がまさに問われる。短期間に凝縮されたコミュニケーションを尽くし、共通の利益と目的に向かって結果を出すことが求められる。
 
興味深いのは、「強い(ハードな)リーダーシップ」が求められがちな、アメリカ人の政府機関においても、「水平型の組織では、場面によってソフトなリーダーシップが求められる」という論点であろう。ハードなネゴシエーションによって自己の利益を勝ち取るといったタイプのリーダーシップだけでなく、ソフトなコミュニケーションによって妥協点を見出していくというタイプのリーダーシップのことである。ハードなリーダーシップとソフトなリーダーシップのどちらかが良いとか、どちらが自分のスタイルである、といった二元論ではなく、両方を使いわける必要性をアメリカ人が現実感を持って語っている部分である。
 
日本でも、水平型リーダーシップの必要性は、今後、増加するのではないかと思われる。例えば、私は、現在、PEファンド経由や、経営共創基盤など、再生の局面に経営チームで入っていく方々の採用や育成のお手伝いなどをさせていただいている。経営チームが、資本の過半数を握らずに経営の現場に入っていく場合には特に、ここで言う「水平型リーダーシップ」的なアプローチが必要になってきていることを痛感する。
 
会社更生法に追い込まれている企業のように、危機感の真っ只中にいる企業でない限りは、日本の伝統的な企業には、資本の理論を前面に出したハードなリーダーシップだけでは、なかなか変革は進まないように見受けられる。企業の合従連衡が進んだり、プロジェクト型組織化が進んだり、と水平型リーダーシップが求められる局面は、今後益々増加する予感がしている。
 
水平型リーダーシップ、という概念について、今回は考えるきっかけを与えてもらったと思っている。権威によらないリーダーシップにおいて、成功の要件は何なのか、リーダーに求められる資質は何なのか等、今回の議論では結論までは導き出せていない。ただ、今後いろいろと考えるための大きなきっかけとなるセッションに出席できたという意味で非常にinspiringであった。本ブログでも、この水平型リーダーシップについては、今後もホット・テーマとして追いかけてみたいと思う。
 
・・・と、あいかわらずの長文になってきてしまったので、global×leadership×innovationについては、次号に譲りたいと思う。
 
(株)プロノバ 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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