ブログへのアップが遅くなってしまいましたが・・・ベンチャー社長必見!人材確保マニュアルのエントリーで書かせていただいた2つのフォーラムで、「急成長ベンチャー企業の人材戦略」に係わるパネルディスカッションのファシリテーターをさせていただいた。
■情報通信研究機構(NICT)情報通信ベンチャー・フォーラム2007
開催日:2007年3月14日(水)
テーマ:「ベンチャーにおける人材戦略を考える」
パネリスト:
サイボウズ 代表取締役 青野慶久氏
ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者 牧野正幸氏
ドリコム 代表取締役 内藤裕紀氏
モデレーター:
グロービス・マネジメント・バンク 代表取締役 岡島悦子
■「Venture BEAT Project」主催 BEAT Forum
開催日:2007年3月22日(木)
テーマ:「成長を目指すベンチャーにおける人材戦略を極める」
パネリスト:
ディー・エヌ・エー 取締役(次世代戦略室長) 川田 尚吾氏
ECナビ 代表取締役CEO 宇佐美 進典氏
セプテーニ 代表取締役社長 佐藤 光紀氏
モデレーター:
グロービス・マネジメント・バンク 代表取締役 岡島悦子
(3月22日のスナップ@控え室:後列左から、ECナビ宇佐美さん、DeNA川田さん、総務省三島さん、セプテーニ広報の方、総務省の研究委員会でお世話になったチェンジ高山さん。前列、私、セプテーニ佐藤さん)
両パネルとも、パネリストの皆さんが「明確な人材観」というものを持っておられる経営者ばかりであり、非常に内容の濃いパネルとすることができた。
通常、メディアで取り上げられているような、ベンチャー企業における採用や育成のTIPSは、その施策のユニークさという部分が取り上げられがち。しかしながら、重要なのは、その施策を打つに至った背景。もっと言えば「目指す組織の姿」、そしてそれを作り上げるための「人材に対する経営者の思想・哲学」。
そういった「目指す姿」が違う企業が、施策だけを真似しても、決して長期的な成功には結びつかない。が、なかなか「人材に対する経営者の思想・哲学」までを掘り下げて伺う機会は少ない。
今回のパネルでは、この部分を相当深堀し、各社の差異や共通点なども抽出させていただいただき、具体的な施策や事例についても伺えた。その意味からも、非常に有益な示唆が生まれたディスカッションだったと思う。
パネリストの皆様、ご多忙な中ご協力いただきありがとうございました。また、ベンチャー業界全体の人材戦略の質の向上を目指すという観点から、ある意味、企業秘密ともいえるような自社の人材戦略の事例やエッセンスをご披露いただきましたこと、心より御礼申しあげます。
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3月末が年度末で超多忙という会社の方が多いということもあり、「惜しくも参加できなかった・・・」という方のために、ここでは、私自身が面白いと思った以下の点のエッセンスだけを簡単にアップしておきたいと思う。
- 母集団拡大・関心喚起のシカケとは何か
- 企業文化維持のためにアウトソース vs スピード重視のサービスリリースのための内製へのこだわり
- 各社の人材観(目指す組織と人材の姿)
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1. 母集団拡大・関心喚起のためのシカケとは
(「この会社に興味がないと思っているが、会社としては採用したい優秀な人材」を発掘し、「この会社で働きたい」とその気にさせるしかけとは何か)
従って、上記チャートの黄色部分の「高嶺の花(自社を知らない・関心がない×採用したい適性保有人材)」にリーチして、関心喚起をするか、が課題になってくる。
知名度のない企業であればあるほど、この問題は深刻である。今回のパネルでも、企業の成長ステージをわけ、知名度のない「採用競争力が低い」時代には、どのように採用の工夫をしておられたかについても重点的に伺った。
しかしながら、企業の認知度があがれば、大量に人材が採用できる、というものでもない。逆に上場を果たし知名度が上がった企業でも、「X年前なら面白かったかもしれないけれど、今更▲▲▲社を検討する気にはなれませんね・・・」と逆に断られるケースもある。
この「高嶺の花層」の特徴は、候補者側の転職意向そのものが低いか、その企業への応募意思が低い。自分からは企業側には寄ってこない。プルのマーケティングは効果がないのである。また、自分から出現してこないため、生息地の見極めが非常に難しい。「発掘」が必要なわけである。
(ちょっと手前味噌ではあるが)、こここそ、私たちヘッドハンターの腕の見せ所。「経営のプロ」人材の中途採用には、そういった人材層の志向やスキルをよく知るヘッドハンターを使い、「高嶺の花層」に刺さるメッセージを投げかけ、関心喚起をしていくことで成果が得られる。
ところが、新卒・第二新卒の「高嶺の花」の関心喚起には、ヘッドハンターは高額すぎる。もう少し効率の良いシステマティックな「しくみ」をしかける必要が出てくる。この部分について、各社、独自の工夫を推進しておられたので少し事例をご紹介したい。
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例えば、ドリコムでは100万円賞金付きの学生向け「ドリコムビジネスプランコンテスト」を行っている。
内藤さんいわく、これには「ドリコムに入社することには興味がないが、100万円の賞金を狙いに来る学生」が集まってくるとのこと。彼らは戦略コンサルティングや投資銀行志望の優秀な学生で、ベンチャー企業で働く選択肢を考えていない場合も多い。
しかしながら、ビジネスプランの作り方の講義を受けたり、真剣にビジネスプランづくりをしているうちに、本来の負けず嫌いの気質に火がつく。そして何より、優秀な「仲間」とビジネスプランづくりにのめりこむ中で、「こういった優秀な仲間たちと働きたい」との思いを強くする。結果、この仲間達と一緒にドリコムで働くことになる・・・
ワークスアプリケーションズもまったく同様の発想。「優秀な人材だけが集積する企業をつくりたい」との理念の下、創業以来、大企業で働く入社5年目くらいまでの若手で「地頭」の良い人材層に訴求することにポイントを絞っている。「挑戦状たたきつけ型」広告を打ち、問題解決能力を徹底的に鍛える経験ができる、という訴求ポイントである。
中途・新卒の学生ともに、ワークスアプリケーションズのインターンシップはスゴイらしい、という口コミの結果、ドリコム同様、「同社に入社する意思はないが、自分には自信がある」という人材が集まり、真剣かつハードな経験を共にした仲間ができる。結果として、「この素晴らしく優秀な仲間と一緒に働きたい」と思い、ワークスアプリケーションズに入社していくこととなる・・・
どちらのケースも、私が「コミュニティー戦略」と呼んでいる手法を見事に体現されていると思う。自分は相当優秀だと思っていたけれど、短期間とはいえ苦楽を共にし、相互に尊敬し合えるような「仲間」を見つけ、そのコミュニティーで働きたくなる・・・、という場の設定を、企業が仕込んでいく、という手法である。
戦略コンサルティングファームの学生向けスプリングジョブなどでは、伝統的にこの手法を使ってきているが、これがベンチャー企業に応用されてきているともいえるだろう。
これによって、着実に「腕に覚えあり」という「高嶺の花層」の人材が、「道場破り」よろしく集まってくる。ポイントは、道場である企業そのものに興味がなくても、彼らのプライドをくすぐる何らかの仕掛けが、そこには埋め込まれている所にある。
但し、この手法を簡単に真似することはできない。学生や優秀な社会人の間に、既に「あのビジネスプランコンテストはスゴイらしい」とか「あのインターンシップはスゴイらしい」とかといった口コミによる評価がある程度確立されているからである。新規参入企業がこの口コミを凌駕することは簡単ではないだろう。
また、このような「しかけ」をしている企業は、上記2社に限らず、相当量のマネジメント・コストを投入している。経営者自らや、エース社員を、「これでもか」というくらい相当量投入している。企業も真剣勝負をしているからこそ、プライドの高い人材が集まり、真剣に勝負し、コミュニティー感が醸成される。この手法を成功させるためには、経営者自らの時間的コミットメントが相当要求されることが必至なのである。
ポイントだけを簡単にアップ・・・と書いたのだが、やはり書き始めると非常に長くなってきてしまった。上記2と3については、次のエントリーにてご紹介させていただく。(すぐ書きます(汗))
グロービス・マネジメント・バンク
代表取締役 岡島悦子