候補者の面接をして下さる経営者や人事の方と話ししていて、最近盛り上がった話題。
「最近、面接にくる人が、みんな”早回しで成長したい”ていうんだけど・・・。岡島さん、なぜなのか教えてよ・・・」という話。なぜ、早まわしで成長したい人が増えているのか、どうしたら早回しで成長できるのか、について、考えてみたい。
「白馬の王子待ち症候群」急増?! のエントリーにも書いたが、現在のジョブマーケットに多いのは「不満はないが、不安がある人」。
どうやら自分の仕事に不満はないんだけれど、
「大学の同じゼミの奴と比較してみると、なんだか成長の角度が鈍い気がする・・・。自分の置かれている環境には、死ぬほどのプレッシャーがあるわけではないし、骨がメリメリきしむような成長実感もない(から不安・・・)」
ということらしい。
どうせ頑張るなら、自分の時間とエネルギーのROIを高めたい、と思っている人が多いということのようだ。
「プロフェッショナル仕事の流儀」などのTV番組でも、お決まりのパターンとして
- 成功していていい気になる
- そのままでは成功しなくなって、挫折する
- そこから這い上がるために、自分なりの流儀を考案する
- 修羅場を解決し、大成功し、成長を実感する
というシナリオになっているが、こういうものに影響を受け、
「あぁ、自分も修羅場経験をするとか、ストレッチしまくるとかしないと、一皮向ける経験はできない」
と思っている方が増加している気がする。
実際、日頃、弊社にキャリアのご相談にいらっしゃる方は、今現在はご活躍中。しかしながら、「3倍速くらいで成長できる機会があったら、ぜひ挑戦してみたい(例えそれが短期的に修羅場のような経験でも・・・)」という人が、確かに増えている。
***
ところで、短期間に急成長したい、というけれど、急成長はどのようにして計測するのだろうか。
「成長前と成長後の市場価値の差異(デルタ)」と「期間」で、計測するということだろう。
それぞれの時期の市場価値は、以下のように計測できると私は考えている。
市場価値=(経営知識・スキル)×(業務上の実績)
さて、この「業務上の実績」の部分でひとつ大きな問題が発生する・・・
「業務上の実績をつくるための実績は、どうやってつくるのか?」
つまり、即戦力的な実績を持っていないと責任ある仕事をさせてもらえない企業の場合、実績がない人は、いつになっても実績を積む機会に招聘されない。
「頑張った人には機会が開ける」という会社だったとしても、頑張る機会が与えられないと実績のつくりようがない。「わらしべ長者」になろうにも、最初の「わらしべ」がないわけである。
要は、「やりたい」と手をあげた人に、未経験でもチャンスを与えてくれる企業にいて、最初のチャンスをどれだけ早めに得られるかが、その後急成長していく機会に恵まれるための分水嶺となる。
そう考えると、ジャニーズ事務所のしくみは、理想的なスター養成システムだといえるだろう。
例えば、亀梨くんの出るドラマの主題歌はもちろんKAT-TUNであり、歌番組でその主題歌を売り出し、ジャニーズジュニア(=ポテンシャル人材)はその後ろでとはいえ、舞台で踊るチャンスが与えられる。ジュニアとはいえ、ステージという場数を踏むことで、人の目に触れ、頭角を現し抜擢されるチャンスが、与えられるわけである。
最初は場の雰囲気にのまれつつも、ガムシャラにやっていたら、結構できるようになっていた、という場の提供が必要なのである。
もちろん養成所のようなところで数々の基礎訓練(歌とかダンスとか?)を叩き込まれているのだろうから、ビジネス界でいうところの「経営の知識・スキル」は習得した上で、実践の場に立たせてもらえる、という仕組みである。
つまり「教育」と「抜擢の場」の双方を付与するという意味で理想的人材育成方法といえる。かのドラッカーもチャンスの場を与えることの重要さを以下のように述べている。
成功の鍵は責任である。自らに責任を持たせることである。あらゆることがそこから始まる。大事なものでは地位ではなく責任である。
責任ある存在になるということは、真剣に仕事に取り組むことであり、仕事に相応しく成長する必要を認識するということである。
(P.F. ドラッカー)
ビジネスの世界でも、ジャニーズ事務所に近い仕組みを持つ企業は、数は少ないが存在している。
例えば、先日日経キャリアビジョンフォーラムのパネルでご一緒させていただいた、GE(リーダーシッププログラム)、ミスミ(ディレクター公募性)の両社は、この好事例だろう。「うちの会社の最大の資源はヒトですから」と言われる企業は多いが、GEほど徹底して「成長の場」をつくることを、全社(それもグローバルで)がコミットできている会社はないだろう。
コンサルティング・ファームなどのプロフェッショナルファームも、同様の取り組みを行っているといえる。ポテンシャル能力の高い人は採用しているものの、コンサルティング未経験という人を(教育はしつつも)バンバンと顧客の前に出して鍛えていく。
また、ベンチャー企業の多くでは、組織ごとの機能(ケイパビリティー)が整備されきっておらず、どの組織がやるかではなく「(やれそうで)やりたいと言った人にその仕事を任せる」といったお家事情だったりする場合も多く、結果として「抜擢の場」「成果を上げる場」は多く存在しているといえる。
実際、「ベンチャー企業で経営資源の乏しい中でガムシャラにやってきたら(いつのまにか)大きな成果が出ていた」という若手メンバーは確実に存在する。その早回し感にびっくりさせられることも多い。
ベンチャーと多少同義ではあるかもしれないが、創業社長が経営している企業、というのも、成長の機会が得やすい企業かもしれない。理念の体現者たる創業経営者が「失敗したらオレが責任をとってやるから、アイツにやらせて見ろ」と、ポテンシャルの高い人材に責任のある仕事を任せているケースも見受けられる。
***
いずれにせよ、「早回しで成長したい」というのであれば、「成長させてくれる機会を与えてくれる企業選び」は極めて重要であることは間違いがない。「ポジションが人をつくる」とよく言われる。ストレッチしたポジションについてみて責任を持たされたことで、「目線がグンとあがり一皮むけた」ということは、私自身も経験済みだし、事例としても数多く拝見し、成長のKSF(Key Success Factors) と言えると思っている。
ただし、今までの議論については、経営者から「岡島さん、これ必ず言っておいてよ」とよく依頼されるので、以下を付記しておく。
あくまでも上記の議論は、「チャンス」を与えられば、セルフスターターとして頑張る、ということが大前提。企業は学校ではないので、「何を教えてくれるのか」などと望むのは筋違い。
そして、成長するためには、最低限の経営知識の習得は必要条件。「勉強しすぎでプライドだけは高いが本番で使えない」という人が増えているのも事実。このような人が増殖しすぎると「MBA不要論」が出没する。
が、成果を出すためには、最低限の筋トレ程度は必要(優れた経営者は、MBAをとらないにしても、必ず勉強している)と心得たほうがいいだろう。
弊社では「経営のプロ」を一人でも多くつくりたいと思っている。上記のような「成長の機会を提供していこう」と思ってくださる「志を同じくする企業の経営者の方々」と、今後とも成長の機会づくりに奔走できればなぁと思う次第である。
グロービス・マネジメント・バンク
代表取締役 岡島悦子
追伸:
金曜日に弊社イベントにご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。本当は米倉教授と上記のような話を展開したかったんですけれど(汗)・・・。
ご記載いただいたアンケートの結果についても、言及できず申し訳ありません。アンケートの「経営のプロ」の定義と資質については、集計して、このブログでも発表させていただきたいと思っております。
ご多忙な中、本当にありがとうございました!