プロデューサーのおちまさと氏が

「最近は恋愛において『青い鳥症候群』ではなく『白馬の王子待ち症候群』のヒトが増えている」

と言っていたらしいが、同じ現象が「超売り手市場」の現在のジョブ・マーケットでも起きている。今回はこの「白馬の王子待ち 症候群」とは何か、そして何が悪いのかについて、見ていきたいと思う。

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景気が悪い時には、「社内環境的に成長できる機会がない」ということで、現状に「不満」があって転職をする人も多い。

「より成長できる機会を求めること」自体は素晴らしい。ところが、どんな環境下でも「自分が活躍できないのは環境のせい=他責」としてしまい、「私にはもっと活 躍できる環境が必要・・・」と次々と仕事を変わる、いわゆるジョブ・ホッパー=「青い鳥症候群」となってしまう人がいる。これはまずい状況である。

ジョブ・ホッパー=問題解決能力のない人、と見られるケースもあり、企業によっては「4回以上転職している人は、すぐにあきらめてしまったりする可能性が高いので、うちではお断りしています」とはっきり断られるケースもある。

景気が悪い時には、この「青い鳥症候群」の人に出会うケースが多い。

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ところが、バブル期を思わせるような「売り手市場」の現在のジョブ・マーケット。最近「青い鳥症候群」よりも重症の「白馬の王子待ち症候群」の人に出会う確率が急増しているような気がする。

景気の回復もあって、企業業績は回復。「コスト削減」といった「後ろ向きの仕事」から解放され、現状の仕事には「満足」という人が増加。

特に優秀な人材であれば、社内の面白い課題に直面して活躍しているケースも多い。結果として「ジョブ・マーケット(転職市場)」には、イケテイル人が出現しにくくなっている。

ところが、どうもこの「満足」セグメントの方々、一般的に言って

  • 「満足で充実」=少数派
  • 「満足だが不安」=多数派

という状況のようである。

世の中に、社長本や起業家を特集した記事があふれている。テレビでも、情熱大陸、 プロフェッショナル仕事の流儀、 カンブリア宮殿など(どれも私の好きな番組ですが・・・)、人に焦点を当てた番組が好評のようである。

登場する方々を見て「いいなぁ」と思い、漠然と「自分もあんなチャンスに恵まれればなぁ」と思っている方も少なくないようである。つまり、今の状況には「満足」しているんだけれど、このまま行ってもどうやったらあこがれのロールモデルのようになれるのかは「不安」といった感じ。

事実、私どもにキャリア相談にいらっしゃる方も、

  • いつかは、●●さんみたいになりたいなぁと思っているんですよ、とか
  • いつかは、「ヒットメーカー」とか「●●の仕掛け人」みたいな仕事をしたいんですよ、とか

おっしゃる方が増えている。

ところが・・・

「それに向けてなにか具体的にやっていることとかありますか」という質問には、

  • 「何か始めなくてはとは思っているんですが、何から始めたらいいのかわからなくって・・・」
  • 「いつか自分にもチャンスがまわってくるんじゃないかと思うのですが・・・」
  • 「どうやったらヘッドハンターに声かけられるようになるんでしょうか」

という答えが返ってくることが、景気の回復とともに急増しているように感じる。まさに、「白馬の王子待ち」

これが、不景気な時期であると、同じように「このままではマズイ」と思っていたとしても、たとえ少し「青い鳥症候群」気味だったとしても、資格を取るとか、社内異動を画策するとか、転職を考えるとか、を少なくとも「検討する」という行動に出る人が多いような気がするのだが・・・。

やっぱり、景気も回復し、給与水準も回復している企業が増えている中で、「不安=危機感」にはならない傾向が強まっているようである。

 

でもですね・・・

断言しますが・・・

待っていても、待っているだけでは、「白馬の王子様」は現れません!

 

つまり、「どこかのタイミングで、仕事を思いっきりやって、何らかの実績を出す」ということをしない限りは、大抜擢されたり、ヘッドハンターから声をかけられたりすることはないのです。

ということは、漠然とした「不安」は不安のまま続いて、いっこうに解消されない。したがって、どんな時もナントナク「このままじゃ良くないよなぁ」とずーーーっと思い続ける。これって、あまり精神衛生上、ヨロシクナイ状況ではないかと思うのです。

 

「大成功」と言われるようなものでなくてもいいのですが、「転ぶまで思いっきり走る」くらい「走りきっている人」にしか、「白馬の王子様が現れるような幸運はない」と思ったほうがいい、という意味なのです。

 

いろいろな方にお目にかかっていると、活躍している方は、実はどこかの時点で、3倍速くらいで走った経験を持っているようです。おちまさと氏の「時間の教科書」じゃないですが、人のことを羨んでいる暇はないのでは・・・。

 

私は、ヘッドハンターだからと言って、むやみに転職をお薦めしたりはしません。慣れた社内の環境で走れない人は、新しい環境の中では走れないことが多いからです。

 

とにかく目の前のことを思いっきりやって小さな成功でもいいから勝ち取る。そのうえで、やっても、やっても環境要因のために自分が成長できない、と思った時に始めて、違う「成長の場」を検討する、ということでいいのだと思います。

 

「セレンディピティー(幸福な偶然)」は確かに存在すると思います。そして私たちヘッドハンターの仕事は、こうした「企業と個人の幸福な出会い」を創り出す仕事、であると思っています。

ただ、いろいろな事例を拝見していると、「思いっきり走る」経験をしたことがある人にしか、こういったセレンディピティーはおきないのではないかと思うのです。 

また「幸運の女神には前髪しかない」とよく言われますが、「思いっきり走る」経験をしたことがないと、この「幸運の女神に気がつかない」のではないかとも思うのです。

 

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景気のいい時代というのは、それだけ企業にも個人にも「成長の機会」を勝ち取る可能性がある「チャンスの時代」だといえます。
 
こんな時代に「白馬の王子サマ」を待って「ゆでがえる」になっている人を見ると
「気づいて! みんな走ってチャレンジしているのよ!」
と叫びたくなってしまうのです。

「人が採用できなくって、人不足=成長のボトルネック・・・」とお嘆きの企業経営者の皆様、ぜひ、みんなで、
「待っているだけじゃ白馬の王子は出現しない、と気づこう」キャンペーン
を一緒にしかけていただけませんか。そうしたら、もう少し、売り手市場も解消するような気がするのですが・・・。

グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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