前回のマッキンゼー的「頭を貸して」の効用の続編のエントリー。
11月19日(日)開催の「経営のプロ」へのキャリアセミナー:「右脳型経営のプロ」の必要性 にパネリストとしてご登壇いただくBCGの菅野寛VPと、事前ディスカッションさせていただいた際の「目うろこ」な話。
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菅野氏は、『経営者になる経営者を育てる』 の著者。この本、私の愛読書であり、弊社の読書会でも使わせていただいた名著である。下記の「アート系スキル」が「右脳系スキル」と同義語である
「優れた経営者との議論と、筆者のコンサルタントとしての経験に基づき、経営者に必須のリーダーシップ能力を抽出し、それらの能力を実践的に身につける方法を提案します。
本書では、経営者に求められる能力を、「科学系スキル」と「アート系スキル」に大別し、「アート系スキル」に焦点を当てます。暗黙知である「アート系スキル」を、エッセンス・スキルに因数分解して、できる限り形式知化して習得する方法を追求しています。
第 I 部 経営者スキルセット
・経営者に必要なスキルセット
・経営者のアート系スキル(1) 強烈な意志
・経営者のアート系スキル(2) 勇気
・経営者のアート系スキル(3) インサイト
・経営者のアート系スキル(4) しつこさ
・経営者のアート系スキル(5) ソフトな統率力
第 II 部 いかにして経営者スキルを習得するか
・習得プロセスを構築し、習慣化する
・体験を通じて習得する・スキルセットを使い分ける
そのうえ、「後天的に右脳系スキルを習得した」と自らがおっしゃる元産業再生機構MDの小城武彦氏が、急成長のベンチャー企業や再生の局面にある企業で、どのように「右脳系スキル」を習得され、経営をリードされてきたかについて実体験をご披露下さり、菅野氏との熱いパネルディスカッションも実現する。小城さんの大ファンでもある私にとっては、まさに夢の企画。ぜひ内容の濃いディスカッション展開をできればと思う次第である。
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さて、菅野氏とのディスカッションで「何が目うろこだったのか」という話だが・・・
「三人目の自分」という概念。いわゆる「メタ認知能力」と同義語である。
菅野氏は、「右脳的なスキル」を後天的に習得できる理由として、以下のポイントをあげている
- 「左脳的な自分」も「右脳的な自分」も、いずれも天性の自分ではない
- 「左脳的な自分」は左脳のプロフェッショナルに徹した自分であり、「右脳的な自分」は右脳のプロフェッショナルに徹した姿であり、どちらも「素の自分」ではない
- 自分を客観的(メタ認知的)に見る「三人目の自分」が意志を持っており、局面によって左脳・右脳のどちらの自分を演じるかに指示を出すようになる
- イメージとしては、元々「素の自分」だったものが、訓練によって「幽体離脱」できるようになり、「左脳のプロ」と「右脳のプロ」の自分を使い分けできるようになる、という感じ
正しい訓練をつめば後天的にでも、自分が苦手な方のスキルを習得できたり、この「幽体離脱」ができるようになる、というのは、「経営のプロ」を目指す人にとっては、朗報といえるだろう。
それでも、私は「敢えてポジション」を取り、「後天的に右脳系スキル」を身につけたり、「幽体離脱」ができるようになるためには、後天的には習得できない「資質」や「一定の条件」、があるのではないかと思って、菅野氏にチャレンジし続けたのである。
「三人目の自分」を持たなければならないとか、「右脳的スキル」が重要だと、「気づく」資質や、「痛感する」体験がなければ、習得は難しいのではないか、という仮設である。「三人目の自分」を持つという概念にしても、どのくらいの修羅場を経験した人かによって重要さの「腹落ち感」は違うはずである。
菅野氏ご自身も著書の中で、
「分析やロジカル・シンキング、フレームワークを考えることは(BCG)三年生としてはそこそこできるが、クライアントの気持ちや情がまったくわかっていない。あれではクライアントに心底信頼されるコンサルタントにはなれない」
と言われた経験を元に、スキル習得法を考え、愚直なまでに訓練を繰り返し、習慣化した方法についても、赤裸々に開示しておられる。
もしかしたら、誰しもが「修羅場」を経験すれば、資質がなかったとしても上記のスキルの必要性に「気づき」「習得せざるを得ない」と考えるのかもしれない。問題は
- 「修羅場」を体験してまでも、そういった「高次元のスキル」をつけたいと思うかどうか
- 「修羅場」を経験しなかったとしても、「修羅場」を想像して、自分に足りないスキルをハードな訓練をしてでも習得したいと思えるほど、「経営のプロ」になりたい、という高い志を持てるかどうか
ではないかと思う。
ちなみに、菅野氏によれば、著書のために取材した経営者に「右脳系スキルは、後天的に習得可能か」という質問をしたところ、多くの経営者の方が、「相当の努力をすればできる」と答えられたとのこと。ただ、その答えは
- 10人中10人が習得可能
- 10人中3人が習得可能
- 10人中2人が習得可能
といった回答にわかれたという。
修羅場や逆境という環境下に直面してなくても、自分を追い込んで「経営のプロ」になる訓練、をしたいかどうか・・・
ぜひ、セミナーで来場者の皆さんに質問してみたい問いである。
グロービス・マネジメント・バンク
代表取締役 岡島悦子