前職のマッキンゼーで使われる表現に「ちょっと頭借りたいんだけど・・・」がある。
「ブレスト(ブレイン・ストーミング)したいので、少し時間をくれ」を意味している。

同じプロジェクト以外のメンバーと話すことで、違う視点や新しい切り口を得て、ブレークスルーをひねり出したい時に使うことが多い。イメージで言うと「一人ブレスト」に限界がきて、「外付けのCPU」をもうひとつつけて、もう一度グルグルと高速回転でまわしてみて解を見つける、という感じ。


これは、結婚祝いにホワイトボードを所望した「ブレスト夫婦(笑)」であるわが家でも、よく行われる光景。私はHBSやマッキンゼーで無理やり「左脳強化特訓」をされたものの、根っからの感情共感型「右脳人間」。通常は結構無理してロジカルに振舞おうとしている。一方、夫は「頭の中身はロジックツリー?!」というくらい理路整然とした「左脳人間」。しかも、仕事の質的には近いものがあるが、生息している業界は別である。

従って、言語やフレームワークは共通しているが、「思考のくせ」が両者異なる。双方が思いっきりポジションを取ってブレストすると「やられた・・・、その手があったか・・・」的な解が見つかる(こともある)。少なくとも自分と違う思考パスを通る人が、どういった論理展開をしてくるか、どんな視点を持って意思決定してくるか、ということは明確になる。

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ダニエル・ピンク著 ハイ・コンセプトの前文に、大前研一氏が右脳と左脳を自由に往来することができる人材(「脳梁」が発達しているタイプ)がこれからの時代に求められており、それが1人で達成できなければ、右脳型、左脳型、の違うタイプの人で集まって、相互に利用しあうべき但し、日本人は類友で固まりやすいので、異なるタイプと戯れにくい。家族内はじめ、対極的な人と交わることができる「環境」が重要になると、違うタイプの人の「頭を借りる」効用を述べている。

情報化、グローバル化の波の中で、企業経営にもパラダイムシフトがおきている。日々多くの経営者とディスカッションさせていただいて体感していることだが、いわゆる「経営機能」と呼ばれていたものの中でもアウトソース化が進んでいる部分もあり、経営者には「より複雑な問題を、より速いスピードで意思決定/解決する」ことが求めらてきているようである。

このような環境下であれば、ますます「頭を借りる」的アプローチが効果的ではないかと思う。より複雑な問題であるからこそ、左脳的・右脳的アプローチ双方をフル活用することによってしか、ブレークスルーできない課題も多いだろう。

また、現在のような環境変化の早い時代には、「①A、②B、③どちらとも決めず意思決定を延ばして様子を見る」、の③という選択肢は最悪の意思決定であることを経営者は認識している。従って、①か②か選ばなければならない。「1人高速右脳左脳往来」ができない場合には、異なるタイプの「頭を借り」て高速シュミレーションした上で意思決定をすることによって、ダウンサイドリスクを軽減できるはずである。

弊社では、企業ステージが成熟してくる過程において、「経営者の右腕」探しや、「経営チームの再組成」のお手伝いをさせていただいている。このときにポイントとなると思っている点のひとつに、「価値観や経営言語は共有するが、思考プロセスや強みの多様性を経営チームとして担保する」という点があると思っている。経営メンバーの中で「頭を借りる」的アプローチが相互にできるか、という観点だ。


例えば、左脳主導型の戦略コンサルタント出身者数名で設立した企業が、ある程度の規模になった際に、共感系右脳型の参謀を投入するケースがある。組織が大きくなり、人材も多様化した時には、この企業では経営者のビジョンや戦略性が現場と共有しきれなくなる症状が現れた。「成長の痛み」のひとつである。右脳型参謀が経営陣に入ったことで、左脳型の経営者が作成したメッセージが、現場スタッフにも共感しやすいメッセージへと昇華され、現場はビジョンや戦略を当事者意識を持てるようになった、という事例である。

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ここまでお読みいただいて、右脳型、左脳型、のどちらかがいいという議論をしていない、ということは十分におわかりいただいたと思う。もちろん、一個人の中で右脳と左脳を往来できる、というのがベストではある。ただ、通常極端ではないにしても、どちらかが強いタイプの人が多く、逆側は意識して鍛錬し、プロフェッショナル・キャラクターとして習得すべきものらしい。


左脳的論理思考力や経営スキルを身につけた上で、「右脳的スキル」も身につけ、 双方をバランスよくマネージすることによって、ビジョナリー・カンパニー2で言うところの「第五水準の経営者」になることができるのではないかと思われる。

11月19日(日)に弊社で開催する第6回「経営のプロ」へのキャリアセミナーでは、元産業再生機構の小城武彦氏とBCGの菅野寛氏をお招きして、「右脳的スキルは、後天的に習得可能か」というテーマについても徹底的にディスカッションをする予定である。

次回のエントリーでは、先日、BCGの菅野氏とこのテーマで議論させていただいた点について、掘り下げてみたいと思う。「目うろこ」のインサイトがあったので、「乞御期待!」。

グロービス・マネジメント・バンク 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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