【ヘッドハンティングの現場でおきていること】
 
景気の影響を色濃く反映してのことではあるが…
 
  • 創業社長の復帰・復権
  • 成長戦略に関する経営者間での考え方の相違
  • 株主であるファンドとの成長の時間軸に対する意見対立
  • 親会社の戦略転換による子会社社長の権限縮小

といった様々な理由から、この12月末で退職を決意されている「経営のプロ」の数が増加している。
 
昨年のスティールパートナーズ等の一連の「もの言う株主」の影響からか、経営者間で戦略の方向性に関する議論がより活発に行われ、成長戦略の方向性を明確に言語化する必要性が高まったことにより、経営者間の価値観や戦略の相違が明確になり、この6月の株主総会で退職をされた経営者も少なくない。
 
それに加えて、この12月末で退職される方の数も増えている。実は、その多くの方が、2002年から2003年に経営陣に加わり、経営のプロとして5年くらいの間、会社の急成長を牽引されたり、変革に携わってきた方。
 
「2年間で会社をテコ入れする」的なターンアラウンドマネジャーではなく、もう少し長いスパンで根治治療に携わってきた方々、というのが特徴である。
 
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弊社プロノバでは、株主やクライアント企業からコンサルティングの依頼を受け、経営者サーチをさせていただく、ということを業としている。
 
一方で、クライアント企業から依頼を受けた際に、適切な候補者を少なくとも数名はすぐに想起できるようにと、おつきあいの深い経営のプロの方々とは、少なくとも半年に一度くらいお会いし、現在の状況や今後の志向などについて、アップデートさせていただくような機会を設けている。
 
従って、こうしたアップデートミーティング(通常は朝食とか昼食とか)の際に、上記で起こっているような、退職の意向を「半歩先に相談される」という機会も多い。そして、今年の2月くらいから「上記のような理由から退職しようと思うのですが…」というご相談が急増している、というわけである。
 
【経営のプロを取り巻く問題】
 
さて、ここで、問題である。「経営のプロ」として実績を出して来た方々というのは、日本のビジネス界において希少資源である。しかしながら、こうした希少資源が、せっかく調達可能という状況になっても、企業と個人のマッチングというのは極めて難しい。
  • 経営課題と個人の能力が合致しているか、は当然として、
  • 経営課題・業界と個人の志向が合致しているか
  • 他の経営陣とのケミストリーは合致するか
  • 企業が欲しいと思うタイミングと個人の都合の良いタイミングは合致するか
  • 今までやってきたことの繰り返しではなく、より大きな(難易度の高い)チャレンジがあり、組織と個人の成長実感を合致させられるか

 

といった極めて難しい条件の組み合わせを考えなければならない。
 
業種を超えて汎用性のある経営スキルを保有している経営のプロが増えているとはいえ、それでも上記の条件をすべてクリアするというのは至難の業なのである。
 
加えて、採用する側(経営者、あるいはファンド)の目も、ますます厳しくなっている。きらびやかな経歴の人を救世主として採用したが、機能しなかった、といったトラウマを経験している企業も多い。業績不振の中であれば「よっぽどの人」でないと登用されず(登用の大義名分がたたず)、抜擢人事などは影をひそめ始めている。
 
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こうした状況の中、いわゆる「経営者浪人」をされている方の数が減少している。「経営者浪人」(言葉の響きはあまりよくないが・・・)とは、個人事業主としてコンサルティングや、数社の顧問などをされながら、自分に最適な「経営の舞台」が出現するタイミングを待っておられること。次の活躍の舞台選びは非常に重要であり、半年から1年くらいをかけて、じっくり探すという方もおられる。
 
先に述べた通り、自分が心血を注げるような機会を探し当てることは、針の穴に糸を通すくらい難しい。そうだとすると、経営のプロの方々が、次の5年から10年をかけてもコミットしたいという仕事を探すには、
私は少なくとも半年くらいをかける気持ちで良いのではないか、と思っている。(もちろん、半年以内に良い出会いがあれば、あえて半年待つ必要はないが…。)
 
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ところが、最近、「経営者浪人期間を半年も待てない・待ちたくない」という人が増えている。当初から探す期間は長くて3か月、という方もいる。もちろん先行きの不透明感の影響が強いことが、大きく影響している。個人事業主として生計が立てられない、ということではないと思う。どちらかと言えば、心理的な側面が大きく、やはり「寄らば大樹の影」的な、「先祖返り」傾向を強く感じるのである。
 
3か月間、経営者浪人してみたが、このまま待っても最適な案件は出てこない可能性もある、ということで見切りをつけ、ファンドやプロフェッショナルファーム、外資系のポジションにつかれる方も多い。
 
もちろん、私はこうしたポジションも素晴らしい機会だと思っている。ただ、せっかく「経営のプロ」として様々な修羅場を経験され、成功・失敗の多くのノウハウを持っておられる方々の知見を、次の機会に活かしていただける方々が増えれば、日本的「経営のプロ」の知見はもっともっと蓄積されていくのではないかと思っているのである。
 
ご相談にのらせていただいている「経営のプロ」の方々とお話をすると、数々の「失敗からの教訓」を持っておられる。「タネを明かせばあたりまえ」的な話も多いのだが、「神は細部に宿る」ではないが、ちょっとしたことの経験があるかないか、知っているか知っていないかが、業績や人材育成に大きな影響を及ぼすこともある。
経営知識ではない、経営の「知恵」である。
 
【最近考えていること(解決策模索中)】
 
言わずもがな、ではあるが、経営者の意思決定によって、従業員をはじめとするステークホルダーは大きな影響を受ける。だとすれば、こうした「経営の知恵」が、もっと共創的に蓄積されるしくみを、何とか創り出すことができないのか、と最近考えている。
 
一方で、こうした「経営の知恵」の習熟度の高い方々が、難易度の高い経営課題を持つ企業の経営の指揮をとっていただけるように出会いを創出していくしくみも考えていかなければならない。
 
今、企業やファンドなどの枠組みを超えて、こうした「経営のプロ」の方々が、次の活躍の舞台を探すのに半年くらいをかけられる、という支援のしくみ(200日プラン)を何とか作れないだろうか、ということを考えている。
 
もちろん、200日分の給与をただで保障する、といったことではない。経営の現場で培った知見を、社会に供給することで対価を得る、といったマネタイズのしくみが、何とか作れないか、ということを考えている次第。
 
例えば、ビジネススクール的なケースを作る、それを口伝伝承型で教える、といったことは、ひとつのソリューションの形かもしれない。
 
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米国型資本主義の崩壊の絵図が目の前につきつけられている現状で、米国礼賛を声高に唱えるつもりは毛頭ない。
 
しかしながら、日本には「経営のプロ」が、その底力を最も効果的に使うために「次の活躍の場をゆっくりと探してもいいんだ」思えるような社会インフラが、米国に比べると未成熟ではないかと思っている。
 
例えば、日本の経営者の報酬は、退職後1年くらい次のことを考える期間をとれるといったファイナンシャル・フリーダムを与えるしくみになっていない。
 
例えば、PE/VCファンドにも、アドバイザリー・ボード、マネジメント・ベンチ、アントレプレナー・イン・レジデンス、といったしくみが存在するケースもあるが、米国に比べるとこれらも機能している事例が少ない。
 
例えば、米国の場合には、このような人々を「実務家教員」としてビジネススクールなどが吸収しているケースも多いが、日本ではまだまだ事例として少ない。
 
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「経営のプロ」が日本にはいない、育たない、という議論をよく聞く。私は、「経営のプロ」は日本に存在し始めていると思う。少なくとも5年前に比べれば、その数は圧倒的に増加している。
 
問題は、「経営のプロ」に活躍の機会を与え続けていくしくみが、欠如している所にあるのではないか、と思っているのである。
 
ここの所、この問題の解決方法について、様々な識者と討議を始めてはいるものの、なかなか解決策は導きだせていない。
 
が、あきらめることなく、様々な関係者と討議を重ね、何らかのしくみ構築をしていきたいと考えている次第である。

プロノバ 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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