【ベンチャー経営者のお悩み】
 
アドバイザーをさせていただいているベンチャー企業の経営者などから、最近沢山の御相談をいただく。
 
「100年に一度の金融危機」の影響も大きく、VCから「今はとにかくCashを大事にしてください」と念を押されているという。こんな時代だから資金調達は大変ではあるし、ごもっともな意見である。ただ、経営者の最大の悩みは、「このままでは縮小均衡に入ってしまうのではないか」というもの。
 
設備投資や広告はもちろん。人材の採用も凍結してしまうのでは、せっかくVCからリスクマネーを入れてもらって、加速度的にビジネスを広げようとしていたのに、経営資源を縛られたままでは、それも立ち行かない…。
 
【ベンチャー企業の採用の現場では】
 
採用凍結をしているベンチャー企業が多い中で、継続的に採用をしている企業には、応募は多い。今まで「こんなレベルの人は受けに来なかったのに」という2レベルくらい上の人材が、応募してきている例は多い。特に、これはマネジャー以上人材のセグメントに顕著である。
 
それもそのはず、12月末には、外資系やコンサルティング会社などのプロフェッショナルファームなどでも、人員削減が行われ、人材市場への人材供給が増えている。
 
一方で、こういう時代には「現有戦力の生産効率をあげることで耐え忍ぼう」という企業が多く、「採用凍結」をしている企業も少なくない。従って、完全に「供給>需要」という構図ができあがっているわけである。
 
但し、「応募は多いのだが、結局のところ採用数が増えない(≒面接に経営資源は沢山使っているが、結局、うちに来ないで、他に行ってしまう人が多い)」というケースも多いようである。
 
「一億総コンサバ化」と私は呼んでいるが、安定した企業とベンチャー企業の双方からオファー(内定)をもらった場合、安定した企業の方を選択してしまうケースが多い。安定した企業の方のポジションや権限が、たとえ小さかったとしても、そちらを選んでしまう人が多いのが、最近の傾向である。
 
【こういう時代下のオススメ】
 
こういうお悩みを抱えるベンチャー企業の経営者に、私がお薦めしているのは「旧知の知人発掘作戦」。 昔の同僚、昔のお客さん、昔コンサルティングしてもらったといった「いつかはこの人と一緒に働きたいなぁ」と思っていた人に、再度声をかけ「口説く」作戦である。
 
まずは3人思い浮かべてもらって、一人一人とランチミーティングをアレンジしてみる。この時、ベンチャー経営者も必ず一人で行くことが、ミソ。「そんなこと、とっくにやってますよ」という方もいるのだが、よく聞いてみると「昔一度口説いて、断られた経緯がある」という程度。
 
実は、その頃とは、同社は規模もドメインも変わっている、といったことも少なくない。経営者側も、いくつかの修羅場を経験して、(僭越ながら)格段に成長しておられる。ましてや、相手側の状況も変化している可能性もある。
 
楽天の三木谷さんは、企業ステージが変化していく中で(ステージに合致した)友人・知人を口説き入社させておられるので有名。その何人かにお話を伺うと「何年もにわたり、継続的に口説かれていた」とのこと。中には約10年にわたって口説かれていたという方もおられる。継続は力なり。こういうことの積み重ねが、あとから「じわっと」効いてくる。
 
先の不透明な時代だからこそ、何が起こるかわからず、特にベンチャー企業では、事業戦略を大きく変革することを余儀なくされる可能性も高い。そんな時代に、自分の参謀となってくれるような
「価値観が近い人」「働きぶりや働き方のスタイルを知っている人」と働きたいと思っている人は多いはずである。
 
一方、口説かれる側の立場に立ってみれば、「口説かれる」というのは悪い気がしないはず。その方の置かれている環境上「今はタイミングが悪い」と断られる場合もあるだろう。
 
だが、「他に誰か思いあたる人はいないか」と聞いてみる手もあるし、「また機会があったらお互い声を掛け合う」という約束をしていることが、意外に花開いているケースもある。
 
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年間300人くらいの方のキャリア関連のご相談にのっているが、その方々の最大の問題は「転職先のDD(Due Diligence)ができていない」こと。
 
投資をしたりする時には、あれだけ入念なDDをする経営者たちも、数回の面談で意思決定してしまう。少なくともここ5年、場合によっては自分の一生を決めるかもしれない決断を、計5〜20時間くらいの「目利き」で決めてしまう、ということ。
 
もちろん私たちのようなヘッドハンターの目利きを信じてくださっている方も多い(感謝)。しかしながら、この仕事を長年やっていると、経営者(場合によっては株主)と候補者の「根っこの部分での価値観」が刷りあっていることが本当に重要であると痛感している。
 
私の場合には、その部分がすり合わせできるまで、何度も何度も、何人の方とも、面談や会食などを繰り返していただいている。
 
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その点、「旧知の知人発掘作戦」は、少なくともお互いの人物に対するDDは、ある程度は終わっている所に、大きなアドバンテージがある。ましてや、経営者が「この人とは一度一緒に働いてみたいと思う3人」に思い描いたということであれば、信頼感の醸成はとても速いはずである。
 
この際に重要なことは、「一緒に働いたことがある」といった固定概念はいったん忘れ、(コンフィデンシャリティには留意してもらうことを約束してもらった上で)
 
  • 自分たちが成し遂げたいと思っている世界観とその背景
  • 大事にしたい価値観
  • 認識している課題
  • 相手に期待したい期待感

を本音ベースで語り、理解してもらうことではないかと、私は思っている。ともすると「一緒にやりたい」という気持ちが先行して「本音」で語れていないケースも散見するし、「口説こう」という気持ちが先行して「現在の問題点」ばかりを話してしまうケースも多いように見受けられる。
 
一見遠回りのように見受けられるが、上記のようなことを理解してもらって、候補者の方が「自分の価値観や問題意識」と当事者として紐づけられるなぁと思い納得する、というのが「説得」のプロセスなのではないかと思っている。
 
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ランチの値段も時間も、無駄な面接を繰り返すことに比べれば、費用対効果は高いと思われる。
 
採用に至らなかったとしても、顧問やアドバイザーとして係わってくれるかもしれない(実際そういった事例は多く、また、そこから社員化している事例も多い)。ビジネスのアイディアや発想の転換のアイディアが浮かぶかもしれない。
 
こんな時代、大量に採用をすることは難しいかもしれないが、ピンポイントで参謀や次世代のホープを採用したいと思っている方は、だまされたと思って、3人の候補者をリストアップし、ランチを試してみていただくことをオススメする次第である
 
プロノバ 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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