リーダーシップのクラスなどで、ケーススタディー型で講師をすることが多いが、最近その経験を通して痛感することがあったので、エントリーしておきたいと思う。
 
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グロービスでは、Harvard Business School(HBS)で作られたケースの和訳版を利用していることが多い。当然、米国企業のケースが多く、登場人物もアメリカ人のケースが多い。
 
最近、受講生(それもいろいろなクラスの受講生)と話していてわかったことなのだが、どうやら、アメリカ人の名前というのは、なかなか覚えられないらしい。また、男性か女性かを名前から判断するのが結構難しいらしい。
 
例えば、「ドナ・ダビンスキーとアップルコンピューター社」という、リーダーシップのクラスでは古典とも言える代表的なケースがある。
 
ここで出てくる主人公のドナはハーバード出身の女性マネジャー。一方宿敵となるデビ・コールマンはスタンフォード出身のジェネラル・マネジャー。ドナは、デビ・コールマンがドナの担当領域である物流部門について「すばらしいプレゼンテーションの改革案を作成している」という噂に翻弄され、頑なに反論していく、という文脈がある。
 
ハーバードvsスタンフォード、女性どうしのライバル心、といった文脈が、ドナの心理状態を考える上で重要な要素となっている。ところが、何名もの受講生から「デビ・コールマンは、てっきり男性だと思っていました。」と言われて、びっくりした。
 
もちろん、男性か女性か、ということだけが、重要なケースファクトというわけではない。ただ、ことほどさように、ケースの文脈をアメリカ人同様に理解する、というのは、なかなか難しいことのようである。聞いてみると、ケースに出てくるような管理職的な人物は男性に違いない・・・という固定概念もあるらしい。
 
確かに、私も海外のミステリー小説などを読んでいて、登場人物がある一定数を超えると、「あれ、これ誰だっけ?」とわからなくなり、カバーのところ書いてある登場人物説明などを何度も見返してしまったりするわけで、一方的に受講生をせめられる類の話しではない。
 
一方で、ケース・スタディーの学びを成功させるためには、「その状況に自分がおかれたら、どのように意思決定し、どのように行動するかを、どのくらい当事者意識を持って具体的に考えられるか」にかかっている。したがって「当事者意識を持てるか」「ケースの主人公にどのくらい感情移入できるか」は、学びの歩留まりのためにも、非常に重要な要素になるわけである。
 
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ということで、最近私が試してみて、成功率が高いなぁと思っているのが、イメージ写真を入れた組織図を作成して見せる方法。リーダーシップの授業の場合には、マネジメント・レベルが異なる登場人物が複数登場することが多い。プロジェクト・チームにおけるリーダーシップのケースなど、プロジェクト・メンバーが多く、なおさらである。
 
勿論、先のケースで言えば、スティーブ・ジョブスなど現在も活躍している人物の写真も使えるわけだが(肖像権の問題もあると思うので、あくまでも「教育目的」ということで、配布資料には使わず、パワーポイントで見せるのみ)、通常、パワーポイントのクリップ・アートから、年齢や文脈に合うような写真を見つけ、組織図上に貼り付け、クラスで使うようにしている。
 
特に、外国人の写真が多いので、米国版のMS Office Onlineのクリップアートを愛用している。写真収集マニアのように、いろいろな写真をダウンロードして切り張りしているので、時々横で見ているうちの夫にも「よくやるよね~」と、半ばあきれられている感じ。
 
 
とはいえ、この効用は非常に大きい。文字によるテキストに加え、写真を見ることで、TVや映画で見るのと同様、人の顔が結構記憶に焼き付けられやすいようである。いろいろなケースで試してみているが、明らかにクラスの中での登場人物の記憶浸透度が高くなっており、より当事者意識を持った発言が出やすくなっていることを実感する。
 
この体験を通じて痛感するのは、記憶や学びにおける「視覚」の持つパワーの重要性。文字というテキストで長く説明しなければわからないことを、映像は短時間で伝えてくれる。もちろん「見たもの以上にイメージを膨らますことができない」といった副作用はあるのだと思うし、文学を味わう時には、そういった想像を膨らますことにこそ、醍醐味があるというのも理解できる。
 
ただ、授業やプレゼンテーション、といった場で限られた時間で何かを伝えなければならなかったり、共有しなければならかったりする場合、映像・視覚に訴える、というコミュニケーション手法の強さを、再認識した次第。
そういえば、最近、企業のプレゼンテーションなどでも、自社製品のデモ・ビデオを流す企業などが益々増えている。そして、デモのつくりかたも益々洗練されてきていると思われる。通信環境などのインフラがますます整備されていることも、要因のひとつだと思うが、どんどん洗練されるデモなどを見ていると、映像が短時間で与えるインパクト、をひしひしと感じる次第。
 
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私がよく使っている言葉の中に、「人はイメージできないと、行動できない」というものと、「コミュニケーションは受け手が決める(伝え手の意図にかかわらず、受け手に正確に伝わらなければコミュニケーションとしては意味がない、という意味)」というものがある。
 
受け手が共有イメージを持ちやすい「視覚」というコミュニケーション。人々が多忙になり、また人々のバックグラウンドも多様化する中で、共有イメージを持ちやすい「視覚」というコミュニケーション方法は、今後ますます重要な価値を持ってくるに違いないと思っている。伝えたいことを視覚的にどうコミュニケーションすべきか、ということを益々真剣に考えたい、と思った次第である。
 
プロノバ 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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