先週・先々週と、社内外のセミナー講師・パネルディスカッションのファシリテーターなどの仕事が、「2週間で6本」というトンデモナイ状況になっていた。お蔭様で、何とか山場を乗り越えた、という感じ。

NILSなどのカンファレンスで経営者の皆様から「ベストパネル」に選んでいただいたり、(リップサービスも勿論あると思うのだが)「ああいったファシリテーションは、どのようにしたらできるようになるのでしょうか」とご質問いただいたりすることが増えている。

勿論、良いパネルディスカッションにできているとすれば、コンテンツが豊富なパネリストに快諾していただけ、積極的に議論をしていただけている、という要素が非常に大きい。また、なるべく白熱した議論をするために対立構造が明確になるような人選をできるか、ということによっても、議論の盛り上がりは大きく異なることになる。

(弊社がカンファレンスの企画・集客にかかわっていないケースなどで)参加者のニーズが事前に捕らえきらないケースなどの場合には、パネリストの人選がすばらしかったとしても、パネルディスカッションが成功と言いきれない場合も出てくる。
 

ただ、「パネルディスカッションのファシリテーターのKSF(Key Success Factors) は何か」という質問に、ストレートに答えようとすると、回答は以下のようになると思う。

  • 人選
  • 準備、準備、準備
  • パネルディスカッション当日の集中力と現場対応力

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今回は、この「準備」の部分について、少し記載してみたい。

何より「セミナーやカンファレンスの参加者に、何かお持ち帰り感がある」「プロとして、パネリスト・参加者の期待値にキッチリ答えたいという気持ちが人一倍強い性格の私。その上、こう見えて(?)意外に心配性なので、念には念を入れて準備をすることとなる。

 

例えば、パネルディスカッションのファシリテーターなどをお引き受けした場合には、

  1. パネリストの企業研究
  2. ​​パネリストへの事前取材での材料収集
  3. パネリスト企業比較の上で、論点や争点になる課題抽出
  4. 当日のシナリオ作り
  5. パネルディスカッションや講演で使うチャート作成

といった「準備」に相当時間を使うこととなる。

私はこれを「機織り作業」と呼んでいる。イメージは「鶴の恩返し」の鶴のように、一人で篭って、粛々とコンテンツ作成を行うイメージ。いろいろと調べ、意味合いを抽出するという作業をしつつ、自分の持っている知見や情報という「自分の羽」をムシリながら、反物に織り込んでいくイメージでチャートを作っていく。

ちなみに、今までに、計50回くらいの講演やファシリテーターを経験させていただいていると思うのだが、使いまわしのチャートというのは、殆どない。通常、対象者や課題によってゼロベースでシナリオをつくり、資料を作成していく、という、ある意味非常に効率の悪い作業をしていることになる。

ここで、いつも本当に難しいなぁと思っているのは、言葉の定義。会社や個々人によって、言葉の定義や概念の捉え方が異なり、同じイシューを討議していても議論がかみ合わないことがよくある。いわゆる「暗黙の前提」というものをパネリストの中でも参加者とも「そろえていく」という作業が必要になる。

従って、討議する対象範囲を限定するためのチャートや、概念を整理するためのチャートを利用しながら、「どの部分の話をしているのか」を確認・整理しながら、く議論の対立構造を明確にしていく、という進行をさせていただいている。

例えば、以下のようなチャート


このチャート自体は何か意味合いを出すようなものではないが、パネルディスカッション中にこのチャートを出して話をすることによって、どのマネジメントレベルの採用の話か、どの職種系の採用の話か、ということの前提をそろえることができる。話し手も聞き手も同じ構造の中で、討議を進めることができるわけである。

また、以下のようなチャートで話をすると、パネリストの方にポジションを明確にして討議していただくことができる

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パネルディスカッションは複数のパネリストがおりなす即興のライブセッションだからこそ1+1が3になって、面白い議論ができることも多い。限られた時間の中で、すべてのイシューをカバーすることはできないので、どこかに焦点を絞って議論していく。話している中から論点が浮かび上がり、その部分を深堀していくことで、想定以上に面白い議論ができる、というのが最強の成功パターンだろう。

だからこそ、論点が浮かびあがりやすいように、議論がしやすいように、想定していたシナリオ以上のものが、現場で繰り広げられるネタを提供できるように、という思いで、準備をしっかりすることこそが鉄則であると思っている次第である。

今後もより良いセミナーやパネルディスカッションを展開するためにも、真摯な気持ちで準備に取り組んでいきたいと思っている。

グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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