前回のエントリーの続きとして、今回は「企業ステージ別の需要予測」のエントリー。


1.次の収益の柱をつくる事業開発人材(再強化期)

昨年から明らかに需要増となっていて、この傾向が続くと予想されるのが、「次の収益の柱をつくる」という仕事。特にIPO直後の企業ステージでのこの需要が多い。上場直後のベンチャー企業では、投資家からの急成長に対するプレッシャーも大きく、従来のビジネスの次の収益源の開発が求められる。

次の収益源の確保方法としては、新規事業開発(創る)とM&A(買う)の両方の手段が考えられる。双方のポジションとも「経営のプロ」人材の需要は多い。社内にこの機能を担える人材がいないというケースも、もっと加速させたいので人材の新規投入をというケースも、増加している。

また、これに似たケースでもあるが、景気回復の影響で拡大指向にある企業が多いためか、大企業でも社内の技術や資産を有効活用した新規事業開発が拡大傾向にあり、今まで中途採用をスペシャリストのみに絞ってきた大企業でも、社内で調達しきれないジェネラリスト的な「経営のプロ」人材を外部調達するケースも少しずつ増えてきている。

例えばB2Bに強みを持つ大企業が、その技術を横展開し、消費者向けの化粧品事業に参入するケースなど。B2Cビジネスを立ち上げた経験とスキルを持つ人が存在しないため、新しく外部調達でチームを組成した、という事例もでてきている。また、技術を横展開し、例えば製薬から食品業界への参入などのケースにおいても、外部調達でチーム組成という事例も同様である。

このように、弊社にも最近益々ご相談が多くなっているのが、その企業が持つ技術や資産の新たなアプリケーション(応用方法)を考え、ビジネスモデルを構築しマネタイズすることのできる「経営のプロ」人材がほしい、というオーダーである。この傾向は2007年も継続するのではないかと思う。

2.次の収益の柱をつくるM&A関連人材(再強化期)

「上場後の急成長を牽引する打ち手」もうひとつの打ち手であるM&A人材のニーズも引き続き顕著。しかしながら、求められる役割は変化してきているようだ。所謂、金融バックグラウンドのM&Aのスペシャリストの需要から、以下のような人への需要へと変化している。

  1. 被買収企業との事業シナジーを考えられる戦略構築をできる人
  2. (企業価値算定は外部委託するものの)、買収時の最も効率的な財務ストラクチャーを瞬時にオプションだしし、財務インパクトを経営者にインプットできる人
  3. 買収後、被買収企業の経営者として経営再建、買収企業との企業統合(インテグレーション)をできる人

特に3のニーズについては、ここ1〜2年急増しており、今年もこの傾向は続くと思われる

3.経営管理体制強化人材(プロフェッショナル化期)

IPOに向けて社内の管理体制を強化したいので、CFO、経営管理室長、経営企画室長などの「経営のプロ」人材を採用したい、という弊社へのご相談は従来から多い。

しかしながら、日本版SOX法が2008年4月以降に開始した事業年度から適用されることとなったことを受け、以下のような企業でも需要が急拡大している。

  1. 何とか既存勢力でIPO準備の対応をしようとしていたIPO直前ベンチャー
  2. 内部統制のしくみを確立しきれていないIPO後のベンチャー

一方、日本版SOX法対応を見込み、金融機関出身者・公認会計士等の専門性の高いプロフェッショナル人材を採用した企業からの「リプレイス案件」も、実は増加している。専門性の高い方を採用したものの、

  • 実務はわかるが経営の目線をもてない方だったとか、
  • 社内浸透をさせ組織を動かすコミュニケーションやリーダーシップスキルが不足していた、

などの理由から、リプレイスやその方の上長となる方を採用したいというニーズ。実務家ではなく、経営者視点をもって経営管理体制を構築できる人材、というのは、人材市場でも圧倒的に不足している。こういった人材は急速に養成できないため、一部の方々をめぐって争奪戦争となっており、この傾向は益々加速するのではないかと思われる。

内部に保有できないのであれば、(兼務・パートタイムでもいいので)社外取締役、社外監査役として、そういった「経営のプロ」人材からの支援を受けたい、というニーズも増加している。

 

4.人事・組織開発のプロ(事業拡大期、プロフェッショナル化期、再強化期)

昨年、最も逼迫していたのが、所謂「ヒト・組織のプロ」。なかなかピンと来にくいが、以下のような、様々なレベルでの需要が急浮上しており、この傾向は今年も間違いなく継続しそうである。

 

  • 人材を惹きつけ(採用・維持)、組織を動かすリーダーシップを持つ経営者(COO)
  • 経営者のビジョンの具現化方法として、人的資源が最大活用できるしくみを考え実行できる 執行役員レベルの人事責任者(採用・育成・評価報酬精度設計・配置等)
  • 実務家人事部長

景気回復の動きを受け、大企業も積極的な採用をかけており、知名度・報酬等の条件、の両方の側面から、ベンチャー企業の人材獲得は、大企業に比べ不利な状況にある。しかも、このブログでも再三申し上げているように、現在は「超売り手市場」。中途採用市場に優秀な人材が流出しにくい、という供給不足の事情も、ベンチャー企業の人材獲得難易度はここ1年、高まりの一途をたどっている。

 

しかしながら、こういった一見、逆風下の事業拡大期のベンチャー企業群の中でも、実は採用市場(中途・新卒)における勝ち組が存在している。社内外の人的資源の維持・獲得に向けて、企業・個人にとっての成長のストーリをつくり・伝えることに対し、経営資源配分のできている企業であり、またそれを実行できる「経営のプロ」人材を有する企業である。

 

IPO直前期の企業においても、これは同様である。上場直前ともなれば、P/Lの利益幅をなるべく大きくしたい。従ってこの時期に入社する「経営のプロ」人材への報酬は抑えたい、という経営者の思いが発生する。しかも、既にストックオプション付与のタイミングは終了していて、アップサイドのある条件も提示しにくい場合が多く、ストーリーを持って語れる「ヒト・組織のプロ」需要はここでも顕著である。

 

IPO直後の企業においても、「ヒト・組織のプロ」のニーズは高い。中途採用市場、特に「経営のプロ」人材の場合には、「IPOすると人材獲得が楽になる」という図式は当てはまらない(新卒、第二新卒については、効き目あり)。かえって「上場を経験できる」とか「上場に向けて個人も急成長する機会がある」といった切り札の効果が弱まるためである。それならば、もう少し早い企業ステージのベンチャー企業を選ぶか、大企業を選ぶ、という意思決定に対抗するストーリーが必要になる訳である。

 

また、急成長を続けていくため、人材をリテインし続けていくためにも、採用・育成・評価制度・再配置などの一貫性のある人事システムを再構築していく必要が、このステージの企業には出てくる。経営戦略を具現化するための(経営視点から考えた)人事戦略をつくれる「経営のプロ」人材は、業界にも本当に少なく、激しい取り合い合戦となっている様相である。

 

5.企業再生のプロ(再生期)

最後になるが、企業再生期についても、引き続き「経営のプロ」人材需要が見込まれる。但し、過去3年くらいに必要とされていた「経営のプロ」人材像と、内容的には変化してきている。

 

  1. 財務体質改善をするプロ (B/S改善)
  2. コスト削減案を立案し、効率化を徹底するプロ (P/Lのコスト削減)
  3. 本質的な売上増のための抜本的体質改善策の立案+実行のプロ (P/Lの売上高増)

上記の内、1と2については、バイアウトファンド傘下の企業や産業再生機構において、多くの「経営のプロ」人材が輩出されてきている。もちろん絶対的な人数は不足しているのだろうが、実績を持つ経験者も増加傾向にあるといえよう。

一方、全体感でいうと3の再生の現場で根治治療を実行する「経営のプロ」人材は、圧倒的に不足しているようである。産業再生機構の冨山COOが話されているように、再生の局面にある企業の中での外科的手術部分が、上記1・2にあたるとすると、これからの抜本的根治治療をする3の人材こそが、まだまだ必要とされている。

もちろん、再生の現場で3に取り組んでおられる「経営のプロ」人材も出現してきているが、尽力されていることが成果として結実するまでにはある程度のリードタイムが必要である。結果としてこの部分で経験と実績を保有する「経営のプロ」人材は、まだまだ少なく、需給は逼迫しているといえるだろう。

***

「経営のプロ」を必要とする企業ステージそのものは、過去3年とそれほど変化していない。しかしながら、以上で見てきたように、必要とされる「経営のプロ」人材に求められる要素は質的に変化しつつある。

  • 専門的スペシャリスト⇒領域的強みと経営視点をあわせ持つ「経営のプロ」
  • 短期的課題解決⇒永続的成長をしくみ化できる「経営のプロ」
  • カリスマ経営者⇒チーム経営をできる「経営のプロ」

がキーワードではないかと思っており、2007年はこの傾向が益々強まるのではないかと予測する次第である。


グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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