昨日、News2Uさんの経営者向けエグゼクティブセミナーで講師を務めさせていただいた。

ベンチャー企業が、成長ステージに応じて、どのような経営チームを組成していくべきか、CXO人材はどのように探すべきか、といった内容と、神原社長との対談。

その中で最も刺さったのが↓のチャート(もし途中で右端が切れていたらクリックして見て下さい)

 

ベンチャー企業が「成長の痛み」を超えられない際に「かかりやすい病気TOP10を記載したもの。ベンチャー企業経営者の相談相手をさせていただいている中から、経験則的に得た症例を、私なりにまとめてみたものである。

創業期→事業拡大期→プロフェッショナル化期→最強化期、と企業が成長していく過程で、本来は組織開発をして機能をわけたり、経営管理体制を整備したり、企業文化(DNA)を醸成したり、経営者自身が成長・脱皮したり、しなければならないにもかかわらず、事業の成長に体(組織)がついていけずかかる病気である。

1.CEO多重役割症候群
トップ営業、事業開発、資金調達、人材採用など、CEOが非常に多くの役割(複数の帽子)を担いすぎ、
属人的組織となってしまう。経組織としての機能を担保できず、かえって急成長が停滞する。

2.CEOスーパーマン症候群

CEOが自分の強み弱みを認識できないケース。「自分以上に出来る奴が社内にはいない」と思い込み、すべてを抱え込んでしまうタイプ。自分の好きな事業をするために起業した社長は、24時間仕事のことを考えているケースも多く、またハイレベルな他の経営者との交流もする。結果として情報も知識も蓄積され、どんどん社員との間に情報量・スキルのギャップが生まれることにも起因。

3.CEO多忙皿回し症候群
短期的に売上が稼げる仕事、火消し的な仕事、でCEOが手一杯(皿回し状態)になり、長期的に戦略を考えたり、組織開発をしたりができなくなってしまうケース。

4.創業メンバー役割分担あいまい病
元々経歴の似た2〜3名の経営者で起業した企業におこりやすいケース。成長ステージがあがり、機能と役割を「1:1対応」させていく規模になったにもかかわらず、役割分担が明確でないケース。重複する業務ができたり、意思決定メカニズムが不明確だったり、社員が誰に相談していいかわからないなどの症状が出る。最悪の場合には、創業メンバーをめぐって派閥ができたりするケースも・・・

5.落下傘受入体制不備病
創業当時の経営チームと若手メンバーで組織を創ってきた企業で、IPO準備のためにCFOを採用しなければならないなど、初めてCXO的な人材を採用する際の話。マネジメントレベルの高い人材が落下傘で入社することに対し、経営者も社員もなれておらず、戦々恐々としてしまい、落下傘入社のCXOが早く活躍できる環境を整備できないケース。情報隔離してしまったりすることで、新CXOが実績を出すことが難しくなる。本来はCEOが他の社員がモチベーションを下げないように配慮しつつも、新CXOが社内の信頼を獲得する小さな成功、をしやすいように地ならしすべき。

6.仲良しクラブ病
創業から比較的少数精鋭で成長をしてきた企業において、「純血主義、家族的な雰囲気」を大事にしすぎるがために、5のような中途採用者に対して排他的になるケース。また、成果主義的な人事評価体系を導入したとしても、厳格な運用ができず悪平等も発生。良い企業文化を維持と、企業の成長規模に応じた経営管理体制の整備は、両立可能だが、そうならないケース。


7.短期収益市場主義病
予実管理が徹底され、4半期ごとの個人目標が設定され、個人の業績評価が報酬・人事評価にも紐づくような経営管理体制が整備されてきた際に発生する。個々人が短期的数値目標に終われ、長期的なしこみ、投資が後回しにされるケース。短期的には売上が上昇するが、次の収益の柱が構築されないことから、どこかで急成長が失速・・・

8.ミドル層不在病
組織は拡大してきたのに、経営チームと現場スタッフという2階層しか存在せず(フラットな階層がいい組織もあると思うが)、次世代経営者候補層が育成されていないケース。スタッフが現場好きであり、人のマネジメントはしたくない、というタイプのエンジニアやクリエイターが多い企業でも発生しやすい。「ポジションが人を創る」という言葉どおり、少しショートだと思ってもミドルマネジメントのポジションを与えることによって、ポテンシャルの高い人材の目線が「グン」と上がり、結果として素晴らしいリーダに成長することも・・・

9.昇格ポジション不在病
逆に落下傘的にシニアポジションの人材を採用しすぎてしまい、内部昇格のポジションが結果的に少なくなってしまい、古参の社員や若手社員のモチベーションが下がってしまうケース

10.YESマン多発病
創業者がカリスマ化し、社員がCEOに対して建設的に意見をする企業文化が薄れてきたり、社員が思考停止する企業風土になってしまうケース。企業規模が急速に大きくなり、アントレプレナーシップを持った社員より、サラリーマン的社員が増加してきた場合にも、このようなケースが・・・

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以上のように、企業が急成長すると、どこかにヒズミが来るのは当たり前だろう。多くの経営者の方が「あるある・・・」と首をタテに振って下さることが多い。私自身も小さな会社の経営をさせていただいている身であるが、身につまされる症状も多い。

繰り返しになるが、上記の症状は、企業ステージが若いときには病気ではない。創業間もない会社であれば、CEOは多くの役割を担うべきであるし、仲良しクラブでかまわないし、ミドル層も不在でもまったく問題がない場合も多い。

ただ、企業が一定の規模に成長しているにもかかわらず、小さな器のままでは、器(組織)そのものが成長のボトルネックになる。組織開発コンサルティング、人材紹介サービスの提供という局面で、客観的に拝見していると「ああ、成長の痛みが・・・」と外からのほうが見えることもある。

また、経営者の方が成長の痛みを認識されていたとしても、痛みを超えられない結果起こる「事象」を想定できず、問題解決を後回しにしてしまうケースも拝見する。

時々、「岡島さんの予言どおりになってしまいました・・・」といわれるケースもある。これは、まったく嬉しいことではない。私自身も半人前の経営者であり、皆さんに教えていただきながら四苦八苦している訳だが、多くの事例を拝見していることから、「病気が発生しそう」という症状が見えてくることがある。

例えば創業当時からいた古参のメンバーが10人まとめて辞める、といったような病気が発生する前に、できれば「組織支援」という立場から、処方箋を一緒に考えさせていただければと思う次第である。

グロービス・マネジメント・バンク 
代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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