最近取材していただく機会も増えているということで、先週、メディアトレーニングに行ってきました!

会社のトップとして伝えたい「キーメッセージ」を構築し、伝える訓練、を8時間カンヅメで特訓。実は、このエッセンスは「企業の採用力をあげる」ことにも非常に通じるな、と思った次第。

ということで、ここで学んだことを「採用力アップ」に応用するとどうなるか、についてエントリーしてみたい。

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このブログでも、最近のジョブマーケットが「超売り手市場」であることは再三申し上げてきているが、この「超売り手市場=The War for Talent (人材獲得競争)」をの勝敗を決めるのが、企業の採用力

採用力については、定義はいろいろだと思うが、グロービス・マネジメント・バンクでは以下のように定義している。

採用力=①企業の魅力度×②魅力を伝える力

①の企業の魅力度とは、因数分解すればいろいろな要素に分解可能。ここでは全部をあげることはしないが、例えば、業界の成長性、同社の競合優位性、ビジョン・ミッションの明確さ、優れた経営者と経営チーム、企業文化等々。

おわかりの通り、どれも一朝一夕に魅力度をあげられるような性質のものではない。従って、採用力をあげたくても、業界の成長性がないのに「ある」というわけにはいかず、採用力をあげたくてもジワジワとしか変化できない要素が多いと言える。


ところが、②については、戦略と訓練しだいで、ある程度なんとかなる、いわば可変のものであろう。経営者や採用担当者のコミュニケーション力による、と言ってしまえばそれまでなのだが、それでは解決策が施せない。もう少し汎用的な打ち手、について考えたい。


採用活動は企業のマーケティングであり、チャネル(メディア)も魅力を伝える力のひとつ。販促のメッセージをどう考えるか、もそのひとつである。


まさに今回私が受けたメディアトレーニングに通じるのはこの部分。IRと同じで、企業業績については、決算発表日当日には経営者がどうしようもないが、その数字の意味するところを「どうアナリストに伝えるか」は経営者の手腕によるのと非常に類似している。


今回受けたトレーニングでは、「想定顧客に対して自社を売り込む」という御題で以下をつくる、というものであった。これを応用し、ぜひ企業経営者の皆さんに「採用力の②=企業の魅力を伝える力をあげる」という趣旨で「明確なメッセージをつくる」という御題で、以下について考えていただきたい。キャッチフレーズを作る要領である。必ずや採用力を「ググッと」あげられるのではないかと思う。

 

  1. 将来仮説(これからの時代、業界・市場はこのようにパラダイムシフトしていくだろうという仮説)
  2. 課題(1のパラダイムシフトが起これば、業界・市場にこのような課題がおきてくるだろう)
  3. ソリューション(自社はこのパラダイムシフトに対して、このような解決方法を持っており、社員にはこのような成長機会を提供できる)
  4. 差別化要因(このような差別化要因を保有しているため、他社ではできない成長機会を獲得することができる)
売り手市場の状況の中では、社内にも成長機会やワクワクする仕事が存在しているケースが多い。それを捨てて転職してもらうためには、「ストーリー性のあるメッセージ」が必要になる。

言い換えれば、その候補者が現在の勤務先の上司や同僚に「退職理由の『大義名分』」が絶対的に必要なのである。「私は〜な使命・課題にどうしても携わりたいので、転職します・・・」という「〜」の部分を埋めてあげる作業である。


例えば、

  • PC業界で起きてきた現象はこれから必ずモバイルの世界でおこる・・・
  • 日本が競争優位性を持つアニメやゲームを日本の基幹輸出産業にしていくには、アートの世界に経営を導入していく必要がある・・・
  • 知的資本経営の時代がやってくるが、弊社ではいち早くここに注目し・・・
  • 環境分野は成長が見込まれるが、巨大企業が存在せず、必ず合従連衡が起きる・・・
  • マスメディアから個人主導のコンシューマー・ジェネレーテッド・メディアの時代が・・・
  • 流通・小売の一時的対処は終わり、ここから根本的に強くしていく必要が・・・

面白いもので、ヘッドハンターや面接者を通じて、上記の1〜4の項目が「明確に」「わかりやすく」伝えられれば、候補者は「さも自分が考えたかのように」転職・退職理由を人に説明してくれる。伝え続けるうちに、それが自分の使命のように感じ始める。反対されればされるほど、上記を力説し、どんどんと自分の言葉としてこなれてくる。他の選択肢や現職に留まることに対し、強い意志を持って意思決定をできるようになる。

大事なことは、経営者がコミットして自分の言葉で「自社が選ばれる理由とその背景」を考え、現場にまで伝え続けることである。どの面接者もが一貫した「強烈な」メッセージを伝え続けられれば、採用力は確実に向上する。


もちろんその「殺し文句」が候補者にとって有効か、ということは相対感を持つ私たちのような者にご相談いただくことは可能である。しかし「言霊(コトダマ)」ではないけれど、経営者がオーナーシップを持って自分で作りこむコミットメントこそが必要なのである。


お薦めなのは、最近採用したイケテイル人に「なぜ入社したのか」の理由を聞いてみること。以外に自社では見えない「良いストーリ(場合によっては懸念事項)」が見えるはずである。


候補者の方々も、ぜひ経営者の「将来仮説、時代認識」といったものを質問してみてはいかがだろう。経営者の大局観、といったものを垣間見れるかもしれない。


グロービス・マネジメント・バンク 代表取締役 岡島悦子

代表プロフィール

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岡島悦子(おかじまえつこ)

プロノバ 代表取締社長/
ユーグレナ 取締役CHRO

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。

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