前回の①外資系企業、②PEファンドの投資先企業に引き続き、今回は③COO人材が「オーナー経営者のいる企業」のNO.2として入社する際の「リスクとリターン」について考えていきたい。
【③オーナー系(創業者社長のいる)企業を懸念】
これも「経営のプロ」人材が会社を退職する際によく拝見する事例。
弊社では、前回のエントリーで分類に示した7つのタイプの内、「後継者候補」「後見人型」「参謀型」にあたる「右腕的人材を探して欲しい!」と、カリスマ経営者と言われるオーナー経営者からご相談を受けることがある。
オーナー経営者が、更なる拡大を望んでいたり、ご自分の役割をより限定しようとしていたり、と前回のエントリー同様、「経営課題と期待役割が明確」という点では、このタイプのNo.2ポジションも、「経営のプロ」への飛躍の「機会」としては、絶好のチャンスである。
落下傘的に入社するとはいえ、経営者の信任の下、権限をある程度担保されて入社するため、実績を構築できる可能性が高い魅力的なポジションである。
オーナー経営者とのフィットと信頼感醸造が重要であるため、面接や会食を重ねていただくが、まるで赤い糸で結ばれていたかのように「一緒にやりましょう」と意気投合し、No.2として入社していただくケースも多い。
その後、そのNo.2がしっかりと企業に溶け込み、実績を出し、オーナーは「オレの目に狂いはなかった・・・」と蜜月が続く。
とここまではいいのだが、ふとした所から歯車が狂い出す。No.2が企業に溶け込み、スタッフの信頼を勝ち取り、「●●さんが来てから、会社が良くなった」などという声が、オーナーの耳に数多く届くようになると、様相は一変する。
オーナー経営者が「オレが創った会社なのに・・・」と思い、No.2への「ハシゴはずし」が始まる。
「結局、社長の影を踏んでしまったようで、ラインからはずされ、また、自分と一緒にやっていたスタッフも、次々と本丸の部署から異動になりました。より前向きな気持ちで活躍の場を獲得するためにも、次のオポチュニティーを考えようと思います。」と言ったご連絡をいただくことがある。
人間力のある社長、と評判の高い社長でも、心のどこかで「独占欲」「嫉妬心」といったものが沸いてくることがあるらしい。上場企業ともなれば、企業は個人所有物ではなく「公の器」であり、オーナー経営者といえども、個人の嫉妬心を克己しなければならないのだろう。
「会社を伸ばしたければ、自分より優秀な人材を雇え」とは、会社を成長させる鉄則ともいわれている。しかしながら、経営者の器の大きさが企業の大きさの限界、となってしまっている企業も少なくないのが現実のようである。
もちろん、No.2と目されていた人物が、「次期社長の器ではない」と判断され、職務をはずされる、というケースも存在する訳であり、両サイドから話を聞かない限りは、「No.2はずしの真の理由」というのは、藪の中である。
とはいえ、「共同経営者として始めたNo.2以外」で注目を浴びる「カリスマの右腕的なNo.2」の数は非常に少ない現状を見ると、オーナー経営者の下でNo.2として成功するのは、なかなか難しいことなのかもしれない、と思うのである。
私たちは、経営者のご相談にのりつつ、その経営者の本質、人間力を理解し、なるべく正確に候補者の方にお伝えしたいと思っている。「人の目利き」の本領が問われる部分である。だが、すばらしい人間性をお持ちの経営者の方でも、窮した時や戦時にどう豹変されるのかが予測不可能な場合もある。
それだけに、よくある質問とはいえ、経営者とディスカッションさせていただく場合に「失敗の経験」を伺うようにしている。失敗をどう乗り越えてこられたかや、周囲の失敗をどの程度許容してきたか、等のエピソードで、その経営者の度量などを感じさせていただきたいと思う為である。
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実際に「COO人材が欲しい」という経営者からご相談を受けるケースは、経営課題が明確な上記の①〜③の企業がほとんどである。
「この3つ以外で探して欲しい」といわれると、これ以外で外から敏腕の「COO的経営のプロ」を採用する必要性のある企業は極めて少ないのではないかと思っており、ヘッドハンターとしては本当に頭が痛いのが実情である。
したがって、これら3つのタイプのどれかではあるが、「この企業は例外」という明確な理由をもつ企業をいかに見つけられるかが、私たちの腕の見せ所であろう。
また、候補者の方のキャリア(経歴・タイミング)によっては、前述のリスクがリスクとならない場合も存在する。「経営のプロ」になるためには、リスクをとってでも「実績」を作らなければならないキャリアの旬を迎えている方もいる。
足繁くいろいろな経営者と密にお話をさせていただき、自分自身も精進しなければ、と思う毎日である。
グロービス・マネジメント・バンク
代表取締役 岡島悦子